3.1. エルニーニョとは
「エルニーニョ(El Nino)」とは、南米ペルーの漁民達が使っていた言葉(スペイン語)で、「男の子(幼子キリスト)」という意味です。毎年クリスマスの頃、南東貿易風が弱まるとともに赤道湧昇が止み、その結果表層の水温が上昇します。栄養分を多量に含む深層水の表層への供給が断たれることになりますので、植物・動物プランクトンが激減しりさらにはアンチョビなどの魚もいなくなります。漁民達にとっては、再び南東貿易風が強くなる2月頃まで、休漁期間となります。これがもともとの意味での、すなわち、季節変化としての(狭義の)エルニーニョです。
ところが、このような南米沖の海面水温が高くなる状態が1年近くも続く現象が、数年おきに発生することが分かってきました。これが現在私達が言うところの(広義の)エルニーニョです。このエルニーニョは、南米ペルー沖のローカルな現象ではなく、通常太平洋赤道域西部に存在する暖水が、貿易風の弱まりとともに東部に移動する大規模な現象なのです。図3に、1997年12月の全球月平均海面水温とその偏差(平年値からの差)の分布を示します。この月は、1997/98年エルニーニョのほぼ最盛期にあたります。赤道太平洋東部海域では、最大5℃に達する正の偏差が出現しているのが分かります。
一方、太平洋赤道域の大気には、西のインドネシア付近と東の南米沖を中心として、海面気圧が数年おきにシーソー的に変動する南方振動(Southern Oscillation)現象が存在していることが古くから知られていました。研究の進展とともに、エルニーニョと南方振動は、海と大気が一体として起こっている現象の、それぞれの側面を見ていたことが分かってきました。そのため、エルニーニョ/南方振動現象、あるいは頭文字をとって、ENSO (エンソ)現象と呼ぶことも有ります。本稿では、以下単にエルニーニョと呼ぶことにします。
また当初は、平常状態に対して、エルニーニョは異常な状態であるという見方がなされていました。しかし、これも研究の進展の結果、エルニーニョと反対に、太平洋赤道域西部により多くの暖水が蓄積する状態もあることも分かってきました。現在は、この現象をラニーニャ(女の子)と名づけています。すなわち、平常状態の中で異常状態(エルニーニョ)が希に起こるのではなく、エルニーニョとラニーニャ、そしてどちらでもないような状態が、交互に出現していると考えられるようになったのです。
エルニーニョやラニーニャの出現を示す指標が幾つか提案されています。その一つにNino3の海面水温偏差があります。Nino3とは、西経150度から西経90度、南緯5度から北緯5度の海域を指します。