付録-5
※この論文は、講演会の内容をとりまとめ、後日「気象」に投稿いただいたものである。
海を知り、気候を語る
−気候予測における海洋観測の重要性−
花輸公雄
(東北大学大学院理学研究科・教授)
<要旨>
気候を具現化しているのは大気に他ならないが、その長期の振る舞いは海に支配されている。長期予報の精度向上や気候変動の仕組み理解の為には、海の振る舞いを知ることが極めて重要である。このため、私達は今、世界中の海を<まなく、かつ、即時的に監視するARGO計画を国際的な枠組みの中で推進しようとしている。
1. はじめに
私達は大気の底で暮らしています。この大気の下層、対流圏の気象現象が日々の天気です。気候はより長期の大気の総合的な平均状態ですが、この気候もまた、様々な時間スケールで揺らいでいます。日々の天気とともに、気候を予測し予報できるのであれば、人間杜会の営みにとって大変有益です。一方、産業革命以来、人類が大量に消費してきた化石燃料から放出される二酸化炭素の約半分が大気中に残留・蓄積しています。このため、地球の温暖化が顕在化したのではないかとの懸念が提出されています。すなわち、気候の変動や、気候の変化の仕組みを解明することが、現在強く求められているのです。
本稿では、自然振動としての気候変動や、地球温暖化に代表される人為的気候変化の仕組みを理解し、その正確な予測を行うためには、海を知ることが重要であること、そしてそのためには、世界中の海を丸ごと監視する体制の確立が必要であることを強調したいと思います。すなわち、「海を知らずしては、気候は語れない」というわけです。
先ず第2章で、気候と海の関わりについて述べることにします。続く第3章ではエルニーニョについて、第4章では現在急速に明らかになりつつある数十年スケールの気候変動を、そして第5章では、海洋監視の新しい時代の到来として期待されているARGO(アルゴ)計画と、その目指すところを紹介します。なお、本稿では、参考文献や引用文献を挙げなければいけないところも多々有るのですが、煩雑になりますのでそれらは必要最小限にとどめております。ご了承ください。
本稿は、2000年10月5日に都市センターホテル内コスモシアターで開催された講演会、「気候予測と海」(主催:(財)日本気象協会)において筆者が話題提供した内容をまとめたものです。