資料4.2.1(2) 講演会予稿パンフレット(1)
海を知り、気候を語る
東北大学大学院理学研究科 花輸公雄
長期予報の改善、すなわち、気候変動のより精度の高い予測のためには、海の状態を知ることが極めて重要です。
地球表面の約7割を占める海洋は、運動学的にも熱的にも、その「大きな慣性(変りにくさ)」のために、地球の気候形成において大きな役割を担っています。季節から数年、数十年スケールの気候変動においては、海がまさに主役を演じているのです。より精度の高い気候変動の予測のためには、「海の天気図」が準備される必要があります。
水は温まりにくく、そして冷めにくい性質を持っています。この性質のため、海洋は大気に比べて温度変化が極めて小さく、また、海洋の貯熱量は大気の約千倍もあるのです。一方、海水は大気の約千倍もの質量を持っています。このため、海水は動きにくく、また、一旦動き出したら止まらないのです。
大気は、このような性質を持つ海洋と互いに影響を及ぼし合いながら絶えず変動し続けています。このようなシステムのことを、「大気海洋相互作用系」と呼んでいます。太平洋赤道域で数年おきに発生するエルニーニョは、まさに大気海洋相互作用の典型的な例なのです。
近年、エルニーニョよりも長い、10年から数十年スケールで気候が変動していることも分かってきました。現在実態の把握と、そのメカニズムの解明に努力が払われていますが、この時間スケールの気候変動も大気海洋相互作用の結果であろうとみなされています。解明のキーポイントは、海の役割です。海のプロセスがこの時間スケールを決めていると考えられているのです。
私達はこれまでも海の状態を監視するため、観測船、研究船はもとより一般商船の協力も得て現場観測を行ってきました。また、定置ブイや表面漂流ブイも展開しています。さらに、人工衛星からのリモートセンシングにより、海面水温や海の高さを記測もしています。しかし、海洋内部の水温や塩分の資料は世界的に見れば極めて乏しく、「海の天気図」を描けるところまでには至っていません。
このような中で、次世代を担う海洋のリアルタイム監視システムの一つとして大きな期待が寄せられているのは、ARGO(アルゴ)計画です。この計画は、世界中の海に約3000個の浮上式中層フロートを展開し、約10日毎に水温と塩分の鉛直分布を計測するというものです。多くの国がこの計画に参加することになっており、我が国でも既にフロートの展開が始められています。数年後には目標とする数のフロートを展開できると考えられています。展開が達成されますと、それらの資料から「海の天気図」が描けることになります。さらに数値モデルヘの活用により、詳細な海の現状が把握できることになりますし、また、海の天気予報も可能となるのではないかと期待されています。最終的には、これらの資料は、長期予報精度の向上に、大きな寄与をするものと期待されているのです。