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第7章 まとめ

 

7.1 研究の成果

 

本研究では、ERS-1、ERS-2衛星およびTOPEX/Poseidon衛星の海上風と波高観測データを用いて、台風域内の海上風と波浪の分布特性を明らかにした。その結果、海上風速分布は、台風の進行方向に対して、右側は風が強く左側は弱いという、従来言われてきたことを衛星データから確認することができた。さらに、台風の進行速度が異なる場合の詳細な風速分布特性を明らかにした。

海上風の吹き込み角に関しては、本研究から得られた結果は必ずしも既存のモデルと一致しない。従来のモデルでは吹き込み角を一定と仮定しているものが多いが、衛星データの解析結果によると、吹き込み角は一様ではなく、台風の中心と外側、前方と後方、右側と左側で異なる傾向を示した。この軸非対称性は台風の移動効果を考慮しても説明できず、今後の詳細な解析が待たれる。

次に、衛星観測データを統計処理して得た台風域内の海上風速・風向の分布特性を定量的に表現する経験式を作成し、これを用いて台風域内のモデル海上風の構築を試みた。その結果、台風域内の風向と風速分布は、関数の組み合わせで概ね表現することができ、作成した経験式は軸非対称な風速分布と風向分布の特性を良く捉えている。

本研究で構築した台風域内のモデル海上風は、これまでに提案されたモデルと概ね類似するが、細かくみると最大風速域や風向分布が異なる。風速分布を表わす経験式は、衛星風速の測定限界を考慮して改良することが課題として残るが、風向に関しては、合理的な分布示すものであり、実用上十分評価できるものと思われる。

これまでに提案された代表的な気圧分布の経験式を気象官署の地上気圧データに基づいて検証した。その結果、3つの経験式に明確な精度の差は見られなかった。

台風域内の波高分布に関しては、移動速度が遅い台風の場合は、同心円状の波高分布を示すか、または進行方向前方で波高が高く、後方で波高が低い。これに対して、速度が速い台風では、進行方向の右側が左側より顕著に波高が高いことが示された。台風中心から各方位の波高を比較すると、勢力の弱い台風では台風中心前方または右側で波高が高く、勢力が強い場合は進行方向から時計回り90〜135度の方向で波高が最も高いことが示された。これらの波高分布の特徴は、第2章で得られた海上風分布の特性に矛盾しない合理的な結果を示している。

台風の右象限で波高が高いことは、目視観測データや波浪モデルの推算結果等から推定されていたが、本調査結果はそれを裏付けるとともに、詳細な台風域内の波高分布を明らかにした。

 

 

 

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