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図5.12によると、傾度風に対して海上風はsuper gradient windの効果が現れている。また、海上風速の非対称性が表現されている。

図5.13は吹込み角モデルと衛星データの解析結果を比較したものである。これによると、台風進行方向の後方においてモデルの吹込み角が衛星に比較して少し過大であるのを除けば、他の方向ではモデルは衛星を良く表現していることが示される。

 

5.4 まとめ

 

衛星観測データを統計処理して得た台風域内の海上風の分布特性(第2章)を、定量的に表現する経験式を作成し、これを用いて台風域内のモデル海上風の構築を試みた。その結果、台風域内の海上風の分布形状は、風向、風速ともに初等関数の組み合わせで、概ね表現することができた。

台風中心から等距離における風速偏差分布(図5.1)は、レイリー分布関数で表現でき、この関数は台風域内の風速分布の軸非対称性(台風右側で強く、左側で弱い;図5.2〜5.4)を良く表現することが示された。

衛星海上風の観測精度は現場観測と比較することにより十分に検証されているが、第3章で述べた波浪推算結果や図5.11に示したモデル海上風と衛星観測値との違いによると、台風域内の衛星観測風速は過小に評価されていることが推測される。

第2章で述べたように、ERS衛星の風速の観測誤差は2m/s、風速の測定範囲は1〜28m/sである。これから台風域内の強風は衛星観測の測定限界を超えていることが考えられ、ここで作成した風速の経験式は、定性的に現実を表現するとしても、定量的には過小評価されている可能性が大きい。

台風域内の風向分布を表わす経験式は、進行速度で分類された台風の平均的な風向分布を表現する。この分布特性は、力学モデルや観測結果と一致する合理的なものである。これまでに提案された風向モデルの多くは、仮定を含んでいるのに対し、この経験式は観測データから得られており、十分信頼できるものと考えられる。

本研究で構築した台風域内のモデル海上風は傾度風を基本とし、これまでに提案されたモデルと概ね類似するが、細かくみると最大風速域の位置や風向分布が異なる。風向分布に関しては、新しい知見を取り入れた本研究の経験式が現実を表わしているものと思われる。風速分布を表わす経験式は、衛星風速の測定限界を考慮して改良することが課題として残る。

 

 

 

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