進行速度の異なる台風については、進行速度が速いほど全体的に波高が高くなり、波高分布の非対称性も大きくなることが示された。これらの波高分布特性は、第2章で得られた海上風分布の特性に矛盾しない合理性を示す。つまり、風が最も強い海域において波高も最も高い。また、台風が進行する時は、右象限では進行の影響が加わり、風速と吹続時間を増し、波高がより発達する。
第3世代の波浪モデル(JWA3G)を用いた台風域内の波浪計算結果は、従来から言われている船舶による目視観測データや他の波浪モデルの計算結果から示されてきた台風域内の波浪特性を支持するものであった。そこでの台風域内の波浪発達に関する基本的な考え方は、台風が進行するとき、風速は進行方向右側で強くなり、これに合わせて右側で最大の波が発達し前方に伝搬して行くが、台風自身も前方に進行するため、波の伝搬速度と台風の進行速度が近いと、前方に伝搬した波は台風中心域から抜けることができず、強風を長時間受けることで更に発達を続けると言うものである。
波浪計算結果を衛星データの解析で得られた台風域内の波高分布と比較したところ、風計算に従来手法(傾度風+一般風モデル)を用いた場合には、両者は定性的に同様な分布を示した。このことから、JWA3Gモデルによって計算された台風域内の波高分布の特性が衛星データから確認できたと言える。
衛星観測に基づいて作成したモデル海上風を用いて波浪計算を行った結果は、台風の進行速度が25km/h以上の場合は、台風域全体に波高が低く計算された。これは、衛星観測風の測定限界が風速28m/s以下であり、28m/sより大きい風速を過小に評価していることが推定される。これより、モデル海上風は台風の進行が風場に与える影響を従来手法に比べて過小に評価している可能性があることが考えられた。
参考文献
日本気象協会、1993:球面座標系による波浪予測モデル及び波浪情報提供システムの研究開発報告書
Miyazaki, M., T. Ueno, and S. Unoki, 1961: The theoretical investigations of typhoon surges along the Japanese coast (I), Oceanographical Magazine, 13(1),51-75.