第2章 衛星から得られた台風域内の海上風分布
本章では、衛星から得られた台風域内の海上風データを収集・解析することにより、台風域内で風向・風速がどのような分布をしているかを調べるとともに、台風の進行速度や中心気圧が変化したときに、域内の海上風速の分布がどのように変化するかを調べた。解析内容は昨年度報告書を概ね踏襲しているが、主な変更点としては、台風中心位置の算出処理上の精度向上、解析年数の追加が上げられる。
2.1 使用したデータ
(1) 海上風データ
海上風データとしては、海洋観測を目的として打ち上げられたERS-1及びERS-2に搭載されたマイクロ波散乱計によって測定されたデータを利用した。
ERS-1及びERS-2は、それぞれ衛星の進行方向、後退方向及び垂直横方向に向いている3本のアンテナを有しており、衛星の軌道に沿った幅約500km範囲内での風向風速の分布を測定することができる。
本研究では、ERS-1及びERS-2による測定結果をIFREMERがCD-ROMに編集しているWNFプロダクトを入手して解析に使用した。データを収集した期間は1992〜1999年、プロダクトの仕様は以下の通りである。
風速測定範囲:1〜28m/s
風向測定範囲:0〜360度
風速精度:2m/sまたは10%(どちらか大きい方)
風向精度:20度
測定範囲:衛星軌道を中心にして500km×500km
空間分解能:25km×25km
WNFプロダクトは衛星軌道に沿った全球のデータから構成されており、その容量が大変大きい。そこで解析を行う前に、日本付近(北緯5〜40度、東経120〜170度)のデータのみをプロダクトから抜き出して編集を行った。また、プロダクトには、1領域につき理論上求まる最多で4組までの風向風速が書き込まれているが、それらの解のうち、プロダクト内の指示符によって最も信頼がおけると考えられる解を選んだ。