3.2 COADS温度データの特性の考察 −南方定点観測データとの対比−
山元龍三郎(京都大学、名誉教授)
要旨
商船や漁船による海上気象観測について、個々のデータの品質は必ずしもよくないとの評価が一般である。しかし、それらの空間・時間平均値データの品質は必ずしも低くないとふつう想定されている。ここでは、専用観測船による南方定点の観測データと対比して・COADSの月平均気温及び海面水温データの特性を評価した。得られた結果は次の通りである。(1)COADSの気温及び海面水温データは、南方定点データよりも平均的にそれぞれ約0.5℃及び0.2℃の高い。(2)COADS月平均値データと南方定点データとの間の差異は、COADSを構成する通報数の多寡とは関係しない。(3)気温と海面水温の気候ノイズは・南方定点データとCOADSデータのいずれについても、約0.4℃である。(4)COADSの気温データの気候ノイズは、日本全国の陸上観測データの月平均気温のノイズ(0.6〜0.8℃)に比べて小さい。これは、海洋の大きい熱容量の効果によると解釈される。
1 緒言
海洋が地球表面の70%以上を占めているので、海上気象観測は、地球規模の気候変動の実態把握に不可欠である。さらに、海洋は、地球上の水分の巨大な源泉であると共にその大きい熱容量のために、気候過程に重要な役割を演じている。そのために、海上気象の実態把握は、気候変動の研究において基本的に重要である(Peixoto & Oort, 1992)。それにもかかわらず、専用観測船によるごく僅かの観測デタを除くと、海上気象の大部分の観測は、商船や漁船によるボランティア気象観測に依存してきた。
19世紀以降のこれらのボランティア観測データを空間・時間的にまとめた全球的なデータセットとして、英国気象局によるUKMDB(Follandら、1984)や米国NOAAA等によるCOADS(Woodruffら、1987)がある。また、これらのデータセットを最近に補強したものとして、Kobe Collectionがある(Manabe、1999、日本気象協会、1996〜2000)。これらのデータセットは、気候変動の実態把握に広く利用されている。
商船や漁船でのボランティア観測は、観測設備やその設置条件が必ずしも最良ではない状況下で、操船や漁獲という本来業務の合間に、実施されている。そのために、観測データの品質は満足できるものとは限らない。気温観測に際して、船体、日射、降水、波の飛沫等の影響が十分に回避されていないことがある。そのために、0.3℃程度の誤差は珍しくなく、最悪の場合の誤差は10℃にも達する(Roll, 1965)。このような不規則誤差に加えて、船体の大型化により甲板の高度(観測位置の高度)の増加に伴う系統的誤差もある。Follandら(1984)によると、その大きさは約0.1℃であり、50年以上の長期間のデータを解析する際には無視できない。