(5) 北太平洋の亜熱帯高気圧が弱い年には強い年に比較して、970hPa以下の台風日数が多い。
大西洋のハリケーンの場合には発生数に影響を与える環境要素が多いが、北太平洋西部の台風の場合、発生数よりもむしろ台風の平均強度や存在日数に関与する環境要素が多い。特に、中心示度が970hPa以下の台風日数はENSO、熱帯域東部の対流活動、亜熱帯高気圧の強度との関係が深い。熱帯域東部の対流活動が活発な年や亜熱帯高気圧の活動が弱い年がエルニーニョ年であることが多く、これら3つの環境要素は関連がある。しかし、緯度経度10°格子毎のQMD解析の結果から、要素によって台風の存在場所(経路)の特徴が異なり、必ずしも同調した現象でないと判断される。各要素の上位年/下位年の台風経路の特徴を以下にまとめた。
(1) エルニーニョ年には、低緯度の東部海域で発生する台風が多く、ラニーニャ年に比較して強い台風が多く発生している。この理由は次のように解釈できる。北太平洋の熱帯東部海域で発生した台風は、低緯度海域を西進する間に高温な海洋から潜熱の供給を得て強大な台風に成長する。一方、太平洋西部で発生した台風は、比較的低温の海域に北上するかまたは大陸方面に移動する。したがって、強大な台風に発達する海域が比較的狭い範囲に限られる。
(2) エルニーニョ年にはラニーニャ年に比較して、勢力を維持したまま日本付近に襲来する台風が多い。この事実はラニーニャ年に比較して、エルニーニョ年に日本の台風被害が大きいことから確認される。
(3) 西太平洋赤道域東部の対流活動が活発年は、台風が25-30N付近で転向して西日本付近へ北上するケースが多いが、不活発な年にはむしろ20N付近で転向して日本の南海上を東進する経路の割合が高い。この理由は以下のように解釈される。活発年は非活発年に比較して、小笠原東方の500hPa高度偏差が高く、東シナ海や日本海付近が低偏差となっている。この結果から活発年(不活発年)には西日本の南海上の500hPa高度では南風偏差(北風偏差)となり、台風の北上が助長(阻害)される傾向にあると考えられる。確実なことは言えないが、上記の気圧パターンは西太平洋赤道域東部の対流活動によって励起した現象の可能性を指摘しておきたい。
(4) 亜熱帯高気圧の負偏差年には、転向後140E以東に移動する台風が多いが、正偏差年には140E以東に移動する台風が少なく、むしろ大陸方面へ向かうか北上する台風の割合が多い。これに関してはよく知られているように、正偏差年には太平洋高気圧の勢力が強く、台風の東方への移動を妨げているとの解釈が妥当と思われる。