2.2.3 海面水温と熱帯低気圧の活動
台風は海面水温(SST, Sea Surface Temperature)が約26℃以上の海域において発生し(Palman,1948)、SSTがより高い海域において強く発達する。SSTが熱帯低気圧の勢力に影響を与える興味深い観測的事実がある。DeMaria and Kaplan(1994)は、北大西洋のハリケーンを対象に同じSSTに対し、勢力の増加する順に風速データを並べる解析(パーセンタイル解析)を実施した。その結果を図2.2.12に示す。中間的な規模の熱帯低気圧(50%)の最大風速とSSTの関係は顕著でないが、最大級の勢力を持つ熱帯低気圧(90%〜MAX)の最大風速は明らかに海面水温に関係がある。例えば、SSTが26℃の海面上で発生する最大級の勢力を持つ熱帯低気圧(99%)の最大風速は45m/sに対し、SSTが28℃の場合には最大風速が65m/sを越えている。この事実はSSTが26℃以上海域では、わずかに1℃上昇すると最大勢力の熱帯低気圧の最大風速は10m/s増加することをしている。Kuroda et al.(1998)、J-J Baik et al.(1998)は北太平洋における台風を対象に同様な結果を得ている。また、Evans et al.(1994)はモデル実験により、他の環境要素を一定にしてSSTのみを増加させると、台風の最大強度は現行よりも増大することを確認している。
図2.2.12 海面水温と台風の最大強度に関するパーセンタイル解析結果 説明は本文を参照 DeMaria and Kaplan(1994)より引用
以上のようにSSTの僅かな差により発生する台風の最大強度は大きく変化する。しかしながら実際にはSST偏差が高い年に強い熱帯低気圧が多いかというと必ずしもそうではない。例えば、1997年のSST偏差は高かったが、強いハリケーンは少なかった。これは、エルニーニョ現象の影響により北太平洋における風の鉛直シアーが増大した影響が大きかったと考えられている。この例のようにSSTの年々変動は対流圏の循環と必ずしも同位相ではなく、大西洋における熱帯低気圧の発生頻度の変動にあまり貢献していないとの報告がある(例えばShapiro and Goldenberg、1998)。
一方、ハリケーンの数十年変動は、大西洋のSSTの変動に帰すると考えられている。図2.2.13の上図は、全球のSSTの主成分分析から得られたEOFパターンの一つであるAMM (Atlantic Multi-decadal Mode)と各地域のSSTの相関分布図を、下図はAMMの時間変化を示している。