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カーシェアリングの会費は、自動的に環境カルテの権利も保有するため市内・近郊における市営近距離交通の半径60km圏を1年間無料で利用できる。今後ドイツ鉄道DBへのサービスともりンクさせるという。また、中央駅にある自転車・交通サービスセンターでは、公共レンタバイクシステムを稼働させている。専用の自転車を市内の居住者、旅行者などに格安で貸し出しており、これも今後公共交通の料金制度とリンクする計画がある。

 

欧州のカーシェアリングとわが国の事情

最後に、欧米のカーシェアリングと日本の事情について未整理ながら考察した。まずわが国の事情として、カーシェアリングやカーフリーシティの意識や事業の遅れが著しいことが挙げられる。米国ではレンタカーの制度が定着しており、激しい競争の結果格安の料金で車が利用できる。カープール、相乗り制度(HOV)も環境政策として進んでいる。EUでは大手サービス企業、自動車メーカー、エネルギー通信業、金融業、流通に自治体が関与して、すでに国や団体相互の競争が始まっている。しかし日本ではようやく通産、運輸、建設、メーカーが事業化への技術的検討を開始したはかりだ。

欧州で車庫法に相当する法律は、わが国では抜穴のある車購入時の「車庫証明」として知られ、住宅購入時の駐車場付置義務が問題とはならない。このことから、車庫不要や低価格が住宅購入の決定要因とはなりにくい。むしろ安価なカーシェアリングや公共交通、自転車でモビリティの利便性を損なわずに、質の高い居住環境が得られることを売りにする必要がある。自治体が集合住宅を開発する例は、欧州ばかりでなくわが国には住宅公社などがあるが、これに公開競技設計や市民参加、NGO の活動を反映する前例が少ない。市民参加や開かれた計画は今後の課題である。

一方カーシェアリング自体も、民間の小規模べンチャーや、市民団体の組合組織でこれに行政が関与する欧州に比べると、わが国には組織的な受け皿がまだ存在しない。レンタカー会社の組織や制度は旧態依然としていて公共交通とは一線を画している。タクシー会社についても、今の規制と経営方法ではカーシェアリング組織には成り得ない。カーシェアリングを公共交通の一部として位置づけ、役所で資金面や運用のサポートを行う仕組みを作ることはまだ時間がかかりそうだ。

わが国で利用者として主婦の「セカンドカー」をねらう例があるのも特殊事情かも知れない。マイカーに対する意識も抵抗として現れる。車の部品売場が大きな面接を占めているし、貸し洗車場の流行も見逃せない現象だ。車の所有意識が変わらなければ事業が進まないであろう。自転車などの補助手段も放置問題から積極的な共用による活用方策へと見直しが必要だ。

恐らくカーフリーシティの建設やエコカーのインフラづくり、ITSでは建設省、カーシェアリングの認可や車体の改良、運賃制度では運輸省、ICカード・通信とデータ処理、EV 部品、通販や宅配などへの多業種化への動きでは通産省、エコカーでは環境庁、などなど役所相互の対応が注目される。稲城市の通産省実験に引き続いて、次いで建設省、日産による海老名市の社会実験でカーシェアリングが始まるという。また、ホンダやトヨタも個別に実験を開始するらしい。

21世紀をひかえて住宅とマイカーという古典的な関係は、環境と経済性と安全を重視する政策により新たな需要が生まれつつある。海外の教訓を生かしてカーシェアリングやカーフリーシティが、技術偏重、省庁の囲込み、利用者が落胆する計画にならないよう、健全な競争と公益性の高いコントロールのシナリオは描けないものだろうか。

 

参考文献:

青木、共著「欧米の駐車政策」(財)道路経済研究所、

平成6年3月

卯月、青木「ドイツにおけるエコ交通とカーフリーのまちづくり」交通工学、Vol.34 No.5、1999

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