図5・11 A-Scope表示での水平偏波と円偏波の降雨中の反射信号の比較
A-scope(横軸を距離、縦軸を信号強度として表示する方式)での観測結果を図5・11に示す。B-scopeでの映像では顕著な差を見ることができなかったが、水平偏波と円偏波とは雨滴からの反射信号は約10dBの強度の差があることが示されている。しかし、猪瀬島からの反射信号には強度差がほとんど見られないので雨滴の反射波の抑制に効果があることがわかる。一般にこれまでの観測例からいえることは、防波堤や人工的な壁などの一様な反射面を持つ構造物からの反射波は、偏波が異なると差が大きくなることがあるので、レーダー映像を観測するときには注意を要する。一般の目標物についても、その形状や材質によっては雨滴と同じように非常に反射の悪くなるものがあるので注意が必要である。例えば、単純な形をしているブイや灯台等で、ブイ等に取り付けられている三重反射形のコーナーレフレクタは特に悪くなる。このような物標に対しては水平偏波を使用すべきであって、状況によって適切に円偏波と水平偏波を使い分けることが必要である。
注:円偏波と水平偏波でのレーダー映像の観測データは、平成12年1月に東京商船大学富浦実習場において行われたものから選定した。東京商船大学(林尚吾教授)と日本無線株式会社新技術開発プロジェクト室(松野達夫室長)との共同研究の資料の一部である。船舶用レーダーでの円偏波での観測写真は、レーダーの古い教科書で見られる程度となってしまっているので大いに参考にして頂きたい。
5・5 プロッティング装置
昔はCRT面上にハーフミラーとプラスチック製プロット面を重ねたものの上に、映像の位置を一定時間ごとにグリルスペンで描いた。しかし、この装置は煩雑であり、しかも多数の他船をプロットすることには限界があった。
デジタル方式のレーダーでは、映像が記憶されていることを活用し、新たなメモリーに画面の映像全体を一定時間間隔(例えば1分、5分間隔で6回など)で記憶して重畳させる方式や、あるいは連続的に記録を重ねて航跡を表示する(trail display、トレール表示)を行う機種もある。最近のラスタスキャン方式のレーダーには、ほとんどの機種がこの機能を持っている。他船の航跡が表示されるので動静やおおよその進路を判断できるので有効である。この機能では指定した時間間隔で物標の過去の位置を白色等のドット(点)や線で表示できる。しかし、混雑した海域では航跡が多くなり他船のレーダー映像が見づらくなるが、機種によっては航跡を細線化する機能を持つものもある。