すなわち、衛星は定められた軌道を通って高速で地上の送信機に接近し、その後離れていく。EPIRBの送信機は一定の送信周波数を送信しているが、衛星での受信周波数はいわゆるドップラー効果を受けて、その受信周波数が高くから低い方へと変化をする。この受信周波数の変化の割合は送信機と衛星との距離の変化によるので、その受信情報を衛星はそのまま地上に遭難情報とともに送信して、地上局ではそれらのデータを処理してEPIRBの地上の位置が決定される。
このCOSPAS/SARSATシステムは、前述のように二つのシステムからなるが、前者の121.5/243MHzのシステムでは、通信衛星のように単に地上からの信号を衛星中継するだけであるので次の欠点がある。1]その有効範囲はEPIRBと地上局とが同じ衛星を見て、ある時間連続的に受信できる範囲に限定されること。2]既存の安価な送信機を使用しているので周波数の安定度が十分でなく、そのため側位位置の精度が悪く、軌道の両側に位置が出るおそれがあること。3]EPIRBの識別ができないことであった。ただし、これは、すでに海空で千数百人を救助しているという実績をもっている。
これに対して後者の406MHzのシステムは、衛星上で受信周波数の測定をして、EPIRBの識別符号等の送信内容を衛星上で記憶し、繰り返してそれを放送するのですべての地上局はそのカバレージに関係なく、衛星が回ってくれば全世界の遭難情報のすべてを受信でき、EPIRBも新しい規格で作られるので、測位精度も5kmと良く、識別符号等のデータの送信も可能である。
GMDSSには直接の関係はないが、間接的に関係のある衛星を利用して測位を行う航法システムに、GPSと呼ばれる全世界的な測位システムがあり、これはアメリカの国防省が開発を進めているが、高精度測位システム(PPS)と標準測位システム(SPS)の二つがあって、後者は全世界の民間に無料で解放されることになっている。このSPSは、50%の測位精度が40m、95%の測位精度が100mである。システムは、軌道傾斜角が55°、軌道半径が約26,500kmの六つの軌道に4衛星ずつ、全部で24の衛星から構成されるシステムで、24衛星の内の3衛星は予備衛星であるとされており、衛星の打上げには時間がかかるので、システムは21〜24で運用されることが保障されている。