1. はじめに
IMO NAV 46(Sub-Committee on Safety of Naviation:国際海事機構第46回航行安全小委員会)が、2000年7月10日よりLondonで開催され、(財)旧本船舶標準協会を推奨母体として参加した。NAV 46の本会議は、議長のMr. K. Poldman(オランダ)の司会で開始され、SOLAS条約第V章の改正に関して、最終的に残された案件についての審議を完結させる旨の挨拶があった。53カ国政府団、27国際機関、総勢約320名出席。
全体の報告は別途報告書として発行されるため、本稿では、(財)旧本船舶標準協会がISO/TC 8の幹事国として、承認されたIMOの性能基準を受けて国際機器規格を作成する重要な役割を担う、船首方位伝達装置(Transmitting Heading Device:THD)に関して、これまでに作成された磁気方位伝達装置(Transmitting Magnetic Heading Device:TMHD)の性能基準からの変更経過説明と合わせ、関係者のご理解と規格作りに携わる委員の方々のお役に立てるよう解説するものである。
以下に報告するTHDの審議は、テクニカル・ワーキンググループ(以下、テクニカルWG)のBグループにて行われた。
*株式会社トキメック
制御システム事業部 特別顧問
2. User requirements for heading system (船首方位信号の利用者要求)
2-1 ボタンのかけちがい
日本語に「ボタンのかけちがい」と云う言葉がある。この件はまさにこの言葉通り、初期の段階での認識のズレが尾を引いて今日に至った感がある。
既にIMO MSC(海上安全委員会:航行安全小委員会の上部委員会)まで通過して成立した性能基準TMHDについて、「利用者側の真の要求は何か」との観点から、これで良いのか問われていたが、これは地磁気の利用に限定したものであり、真方位信号の利用者(RADAR、AIS)の要求を満たすためには、技術的な問題があること、エンドユーザ(小型船型を対象とする)にとって費用の高いものになってしまうこと、更にNAV 44で合意された3種類の船首方位検出技術を活用する道を閉ざしていること及び新SOLAS改正V章施行の2002年7月までには、型式承認品が市場に出ていなければならないこと。などを配慮し、放置する訳には行かなものとして、NAV 45の席上で日本から指摘し、継続審議事項としたもの。
“かけちがい”の発端をここで詮索しても仕方ないので、提案趣旨から紹介すると、前々回のNAV 44にてSOLAS第V章の改正案が検討され、500総トン以上の船舶は従前通りであるが、この規則案では300総トン以上の全ての旅客船、貨物船の船舶には、他の機器に加えてRADARと電子的プロッティング機能(EPA)、及び自動船舶識別装置(AIS)の搭載(最終的には国際航海をする旅客船となった)が義務付けられている。