5. 定性的安全評価事例(離着桟操船援助システム)
従来の設計プロセスでは多くの場合、設計時に考慮した事項や使用状況を明文化した形で残されることはなかったが、今後システムの安全性を規格化するためには、設計段階で安全性をどう考慮し、設計段階の意図を使用者にどのように伝えるかなどの透明化が必要になる。システムの運用に当たっては、その意図に沿って使用されるかどうかを確認する事が求められる。
一方、船舶の運航はその複雑さや特殊性から操船者の能力に負うことが多く、運航支援システムの安全性を評価する上で人間との関係を明確にすることは必要不可欠である。このため、運航支援システムの安全性確保のガイドラインには、現場で作業に従事している操船者の立場を十分考慮して、設計者及び操船者がお互いの状況や技術レベルを理解してシステムを設計し、評価することが必要である。
このためには、次の3つの項目に留意することが必要である。
(1) システムが利用される作業の分析。
(2) ユーザーニーズと提供機能のすり合わせ。
(3) 提供機能を使用する現場における有効性の確認。
評価に当たっては、作業分析、ユーザーニーズの調査結果、設計者による機能の提案をベースにニーズへの対応を明確にし、最後に使用状況を考慮した機能の有効性の確認を行う。これにより、評価の出力として、作業分析表、ユーザーニーズリストに対応した機能対応表及び最終確認表が作成される。
本調査では、離着桟操船援助装置を例として、付5に示す諸資料を作成した。
5-1 製造メーカーとして離着桟操船援助装置の安全に関する機能の概要(例)
設計の各段階における安全に対する検討項目、ジョイスティック操船の各段階における機器の役割と安全機能
5-2 外航船(20,000DWT以上)の離着桟操船作業フロー(例)
ジョイスティックの有無や各環境条件における操船手順と問題点
5-3 内航船の離着桟操船作業フロー(例)
在来船、スラスターの装備及びジョイスティック操船の手順の対比と問題点
5-4 チェックリストによる安全性の評価手順
以上の分析をもとに、操船作業の分析表を作成し、ユーザーニーズと提供機能の対比などを基にチェックリストを作成した。
本試行解析に対し、各項目の重要度をランキングシステムなどにより評価すれば、定性的検討を基にした定量的評価が可能になる。この際に並行して論理演算を行い作業遂行における重要な要素の欠落を防止する必要がある。試行解析のユーザーニーズと機能仕様との結び付けに際しての留意点は、(1)シナリオの選定と作業フローに従った対応付け、(2)ヒューマンエラーや機器の異常および想定外の外乱の対処についての項目ごとの対応づけであり、(3)ユーザーニーズと機能仕様の完全な整合は、製造、運用にわたる段階的なプロセスを追っていくことが不可欠である。