鋼材の強さで、もう一つの大切なものがある。それは繰返し力をかけると、その力の大きさと回数によって鋼材が弱くなることである。これを疲れ強さという。たとえば針金を折り曲げると一回では折れないが、数回くりかえすことで折れるような例がある。この場合は塑性変形を起すような高い応力を加えているので、数回のくりかえしで折れるのであるが、応力が低いと何万回、何十万回くり返して、やっと切れるようになり、さらに応力を小さくすれば百万回〜千万回(これを106回、107回という)も繰返しても折れなくなる。この限界の応力を疲れ限度といい、静かに連続的に引張った場合の破断応力(極限強さ)の1/2〜1/3にも下がる。したがって、機械台、船尾のプロペラ附近の振動をひどく受ける部分では、部材の寸法を増して応力を低くしておかねば、損傷を生ずるおそれがある。ましてこの部分は溶接がし難かったり、曲げ加工の程度の高いところで、鋼材も弱くなっていることが多いので注意が必要である。
どれだけの応力では、何回の繰返しに耐えるかの限界を示す曲線を疲れ限度曲線(S-N曲線)といい、第1.6図に一例を示す。図中の線の下方では破壊せず、上方では破壊することを示している。
船体の寿命を20年とすると、20年間に波浪による応力のくり返し数は1kg/mm2の応力で大よそ106〜107(百万回〜千万回)、10kg/mm2の応力の程度で103〜104(千〜万回)と推定される。応力集中率(平均的な応力より、開口附近の部分の応力が高くなっている度合)を3倍、疲れ限度を20kg/mm2とすると、船体の普通の部分は大体20年間に疲れ破壊はしないと考えられる。