H型拘束試験片は、第4.8図にあるように、1枚の部材に対し、2本を溝を切り、あたかも3本の柱で両端の部材がつながっているような形にする。両側をA部材、真中の柱をC部材と名付け、C部材に対しては中央において突き合わせ溶接用の開先をつくる。溶接をはじめる前においては、A、Cの両部材に対して何等の力が働いていないから、柱の内部には残留応力はないものとみてよい。
C柱の中央の開先に対して、溶接をはじめると、溶接の熱は、最高1,400℃から1,500℃位に開先の部分を加熱する。先に述べたように常温から1,500℃近辺に加熱されると、熱によるこの部分の膨脹は、Cの柱を通してBの部分を外側に押し出そうとする。ところが、Bの部分は、Aの柱によって両方がつながっているために、Aの柱はそれぞれBの部分に引っ張られることになる。即ち、溶接中はCの柱にはBからの圧縮応力、Aの柱にはBの部分からの引張応力が発生する。ところがCの柱は、高温に加熱されているので、降状点は通常の23kg/mm2程度よりは、数段低い応力で降伏する。このBの部分から受ける圧縮応力が、降伏点より高くなると、Bを押さないで、横の方へ膨脹しておさまってしまう。ところが、溶接が終って温度が下ってきた状態では、Aの柱の常温での長さに比べて、Cの柱は、高温時において、同じ長さであったのだから、温度が下るにつれて、Cの柱の長さは短かくなり、今度は逆に、Bの部材から、Cの柱は、引張り応力を受け、Aの柱は圧縮応力を受けるようになる。この引張応力、圧縮応力がそれぞれ残留応力というものである。