II.II. 椅子及びデッキ等の身体障害者用設備機器の開発
1. はしがき
障害者のヨットでは、言うまでもなく障害者自身が操船作業を安全確実にできることが基本でる。とくに現行のヨットでは、操作不自由な部分であるデッキ形状、つかいやすい艤装品など、障害者セーリング最大の問題点を解消することが望まれている。
障害者用ヨット建造にあたり現行図面で不足している実寸モデルでの検証、特に障害者を支える椅子の形状、これにともなう操船動作行動がしやすいコクピット・デッキ形状の決定、そして昇降装置についての検討開発を実施した。
開発にあたり、現行図面による実寸モデルをヨット上に作成し、海上試験を含め障害者による実寸モデルでの実証試験を実施した。この実証試験での障害者の声を取り入れ図面化をヴァンデスュタット大橋に依頼し現行図面の変更と新規図面を制作した。また椅子部については、東京都福祉機器センターの協力を受けた。
これにより安全で操作のしやすい障害者用ヨットが進水し、障害者の社会参加機会の増進に貢献するものと確信している。
開発期間:平成12年6月1日〜平成12年8月20日
参加身体障害者(延べ):ヨット経験身体障害者82名 一般身体障害者26名
障害内容:脊椎損傷、視覚障害、片足切断、体幹障害、ポリオ。
場所:夢の島マリーナ、浦安マリーナ、及び東京湾。
実施者:特定非営利活動法人ヨットエイドジャパン
2. 他の分野で実用化されている昇降装置についての調査
昇降装置について、東京都福祉機器総合センターの主任相談員広瀬氏、障害者支援機器メーカーと本会メンバー及び障害者セーラーで数回の各種リフト装置の実地検討および筑波のJIS センターにての調査を実施した。これにより他の分野で実用化されている障害者を上下させるリフトは、椅子式と布式に大別されるが電動が中心であり、手動式のものは数が少なく入浴用と車椅子の座面が上下するものの2点であった。これも東京都福祉機器総合センターによると導入例は非常に少ないとのことであり、機能的に使用目的が違うためヨットに取り付けることは不可能であった。
調査検討の結果、現行この2点の他に参考導入すべき装置がないこと、リフトの椅子形状に関しては、障害者から平らなものが望ましいとの声をがあり、現行図面のリフト装置で制作することにした。この昇降装置については、完成したヨットを使用しての試験を実施し、障害者による意見を取り入れられるよう改めて開発することが望ましい。
3. 実寸モデルによる実証試験結果
3.1. 操船装置
欧米で使用実績があるバー操船方式について2艇のヨットに取り付け体験確認を実施した。この装置の利点は、椅子と操船装置が一体としたもので設備がコンパクトになること、直接ラダーにセット出来るので舵の微妙な感覚が伝わることである。欠点は、両サイドにバーが付くので乗降に不便、直接ラダーを動かすために力が必要となる。これに比べ現行図面の油圧ハンドル式は、椅子に付いての制約がなく、油圧により軽く操作することができる等の利点がある。
体験した障害者の意見も欧米での利用実績よりもハンドル方式が圧倒的支持があり、これをうけて操船装置はハンドル式に決定。