6) ダウンウインドまとめ
性能を追求するのであれば、スピンの優位性は動かない。ジェネカーのメリットはそのハンドリングの容易さであるが、それは今回の実験では評価できず、実艇での検証が課題として残された。 だたし、今回設計した新コンセプトのジェネカーはダウンウインドに強く可能性を感じさせ、今回の研究で得られた知見を元に改良を行えば、さらなる性能向上が期待できる。
大きなジェネカーを採用する場合には、ジャイブ時のハンドリング性を考えると当然バウポールを使うことになり、またそれはスイングする方が、真風向TWAを大きくしてもはらみ続けるのでセーリングが安定するし、また風が強くなれば最適TWAも大きくなるので性能面でも効果的である。
一方、バウポールなしでジブタックを使って上げる、ハイアスペクトでエリアの小さなジェネカーも、ハンドリングが容易で、しかもそれなりの性能があり、選択肢として十分考えられる。
6. 結言
1/16スケールのモデルを用いた風洞実験により、セールの寸法や形状の違いによる流体力を把握し、合わせて計算機シミュレーションを作成、計算することで、セーリング状態や性能を予測検討することができた。これにより、通常ヨットよりもシビアに効率追求を行わなければならない身障者ヨットの開発設計の一助とすることが可能となった。
実験によって得られた値は再現性や精度も十分にあり、セールやマストの違いによる特性の違いを資料として得ることができた。これらは開発目的のために使えるという意味では、世界に公表された例があまりなく、貴重なものである。
シミュレーションも、世界的に普及しているIMS VPPの計算結果とは多少のずれはあるものの、性能変化の傾向をよく表していることがわかった。本シミュレーションは、ハルやセールの特性さえわかっていれば、IMS VPPよりも簡便に、また柔軟に扱えるものであり、セーリングヨットの性能向上に資することができる。
さらに、これらの実験とシミュレーションにより、セーリングヨットに関する知見を高め、具体的な性能向上のヒントを得ることができた。セールプランの改良、最適セーリング状態の把握、ローテーションマストの可能性、ジェネカーの形状改良や採用の可否、等々がそれであるが、今後はさらなる風洞実験や、場合によっては数値計算によりデータの充実と精度向上を図ること、および最も重要な点として、実艇による実験により、これらの検証と、身障者の方が実際に扱ってみてどうかという実践を行うことが課題として残されている。
最後に、本研究は(財)日本小型船舶工業会の平成12年度「身体障害者用ヨット開発」事業のうち、「風洞モデルによる高性能で安全なセール形状の研究開発」として行われたものである。このような研究の機会を与えていただいた(財)日本財団、(財)日本小型船舶工業会ならびに東京大学生産技術研究所木下健教授、同委員の関係各位に深甚の謝意を表します。風洞実験に当たってはマツダ株式会社、モデル製作には安井淳、(株)ノースセールにご協力いただいた。ここに深く感謝いたします。