6-5. 結論
今回の筋力測定で得られた測定結果についていくつかの視点から検討してみたが、当初考えていた程にはセールの操作には手の機能の影響度は高くないのではないかと考えられる。むしろ、セールを操作するために十分な力を発揮するためには、いかに体を安定させるかがより重要な要素となるものと考えられる。したがって、障害者がより容易にヨットを操船するためには、より機能的な椅子を用意することが重要なのではないかと考える。
より機能的な椅子として示唆されるのは、
1] ウィンチと体の位置関係を体格に合わせて変化させることができる。
2] 体幹の保持が困難な者にとって、体をしっかりとホールドできる。
3] 足の踏ん張りが可能な者にとって、足を踏ん張ることができる。
というものであり、今後の検討が重要な意味を持つものと考える。
7. セールトリム装置の最適化と安全性の検討
7-1. ウィンチサイズの決定
今回建造されるヨットのジブシート用のウィンチのサイズは、障害者の筋力測定値、四肢健常者の筋力測定値及び実際にジブシートにかかるであろう張力(ジブシートロード)から求めることができる。
具体的には、ジブシートロードと四肢健常者の筋力測定値より、1] 四肢健常者に最適なウィンチサイズを求め、2] 1]とLewmar社の推奨する建造中のヨットに適したウィンチサイズを比較して1]の妥当性を検証し、3] 障害者と四肢健常者の1st Speed(以下、1st。)の筋力測定値を比較して、障害者に適した当該ジブシートロードの下における、1stのパワー比を求め、4] 障害者の1stの筋力測定値と2nd Speed(以下、2nd。)の筋力測定値を比較して、2ndのパワー比を求め、5] 4]で求められた1stと2ndのパワー比に適するウィンチサイズを決定する。
*上記4]において、障害者の1stと2ndの筋力測定値の比(約1:2)から求めるのは、実際の測定値はウィンチのギヤ比(約1:3)いわゆる理論値のとおりとならなかったためである。今回の筋力測定結果からの1つの注目すべき点として、測定値が理論値のとおりにならないことを、数値データで把握できたことが挙げられる。両者の間の乖離は、従来からフリクション(抵抗等)の作用によることが判明していたが、今回はそれを数値的に実証し得たものである。