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近代化の進展で便利な機械に囲まれた生活は、一方で人間関係を希薄にしてしまった。今後さらに情報技術化が進むことを考えれば、明確な意識を持って、必然的に人同士がふれあえる仕組み、あるいは傷ついた心を癒せる仕組みを構築していかなければならない。

まずは、心が疲れてきた段階で気軽に通える「精神科医」の存在がある。アメリカなどでは精神科医に通うことは決して特殊なことではない。一方日本では風邪を引いただけでも大学病院に出向くほど身体の病気には熱心だが、心が相当なSOSを出しても医者に見せようともせず悪化させてしまう。心の病気でも初期の「風邪」程度の段階からさまざまあるはずだ。早く手を施せばいいのは何も身体の病気に限ったことではないだろう。残念ながら人数的にもそして質的にも、さらには周囲の理解の目もまだ大きな遅れを取っているが、機城にますます囲まれるであろう二一世紀を考えれば「心の病」にかかる割合はさらに増す。それを支える社会態勢がなければ、自殺者数は右肩上がりで続いていくばかりということにもなりかねない。

そして、これも肉体と同様に、何よりもまずは「予防」、つまり心を健康に保つにも身体と同様本人の意識が必要だということ、またそのための環境づくりも必要だということである。

職場や地域では一人ひとりが孤立し、助け合うことがむずかしくなっている。悩みを相談する人がいないばかりか、周りに気を配ることさえしなくなってしまった。一人ひとりが互いに認め合い、ふれあい、助け合っていく、そんな仕事以外の、あるいは我が子の子育てだけではなく、一人の大人として地域参加・社会参加の時間を自分なりに作っていくことが大切になってくるのではないだろうか。

企業の経営形態も大きく変化しようとしている今、たとえ景気が回復したとしても、従来の終身雇用・エスカレーター人事といったシステムに戻ることはあり得ない。また、女性の社会進出が進むにつれ、家庭での父親の役割も大きく変わろうとしている。滅私奉公的な組織の要求や、家族全員の生活や生き方まで背負い込むという男像・父親像はそろそろ捨て去るべきだろう。

 

 

 

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