三人の子供は立派に成長し、長男は高名なフランス料理店に入ってやがてシェフとなり、二人の娘はそれぞれ固い職業の夫を選んで結婚した。共に80歳を過ぎた春江さん夫婦は、横浜・保土ヶ谷で、小さいながらも一戸建ての家に住み、長男夫婦と孫に囲まれて平穏な老後を過ごせるはずだった。ところが長男が急死してしまった。
嫁は自分と子供の生活が精一杯で、春江さん夫婦の面倒は見られないと言い出し、すったもんだしたが、結局、千葉県・佐倉市に住む二女夫婦が最寄り駅の近くにマンションを用意して両親を迎え、隣の八千代市に住む長女夫婦と交代で世話をしようということになった。ようやく老夫婦に平穏な余生が訪れたのです。
それから3年。春江さんが心筋梗塞で入院。長女が汗拭きにと黄色いタオルを半分に切って渡し、もう半分を又蔵さんに渡しました。又蔵さんは、そのタオルをマンションの廊下から、病室の窓に向かって振るのです。看護婦さんに促されて、春江さんは照れ臭そうに枕元の半分のタオルをつかんで、のろのろと振ります。又蔵さんはいつまでも振っています。幸福の黄色いハンカチと、看護婦さんたちの間で評判になりました。
結婚70年を超えた97歳と91歳の夫婦、まだまだがんばっています。