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「どういうわけか、年寄りが好き」と言うだけあって、たまたま交差点ですれ違ったお年寄りともすぐにお近付きになってしまうというから驚きです。そのままお宅に出向き、お付き合いを重ねながらさりげなく心配りをする…今でも4人のお年寄り宅を訪問しているようです。

竹内さんの相手への接近法を見ると、たとえば趣味の粘土を持参して、「ちょっとこれで作ってみない?」と誘い掛ける。その気が出てくると見るや「今度は公民館のグループに入ってやったら?」とか「ウチの窯を使って本格的にやらない?」と、一歩踏み込ませる。男性からも、その細君を通して「味噌を作ってみたい」といった希望を聞き出して、それを実行させてしまうと言いますから、活動家にかかっては、相手は女だって男だって関係ないようです。ただの「ふれあい」に終わらないというのも彼女の特徴です。ふれあいの中から相手が何気なく吐露した悩みごとをしっかり受け止めて、それを解決させずには済まない。訪問相手のお年寄りが趣味の竹細工で展示会をしたいと言えば、その手配をする。鬱(うつ)の人が「同じ鬱の人と語り合いたい」と言うので、相手を探し出して、わが家でそれとなく交流させようか、と考えています。

誰かに頼まれたわけではないのにまるで福祉のワーカーのような働きをやっているではありませんか。福祉関係者は信じないかもしれませんが、地域を歩いてみると、一定範囲内にこんな人が必ず1人や2人は居るものなのです。

おもしろいもので、こういう人の家はたいていは、文字通りの総合福祉センターになっています。竹内家では、日常的に人を招いてお茶をふるまったり、高齢者などに憩いの場を提供しています。近隣の主婦たちも、フラッとやって来ては夫のグチを吐き出して帰っているようです。

また庭に窯を入れて、近隣の人たちと焼き物を楽しんでいます。自宅を開放して、なんと作品展まで定期的にやっているとのこと。「いつでも誰でもどうぞ」。まさに千客万来の家なのです。彼女は老後には、特に仲の良い近隣の数名と一緒に生活しようかと計画しています。各自、自分の家を生活の基盤に置きつつ、買物や食事やふれあいを竹内宅で一緒にする。将来はこんな形のグループホームが広がるかもしれませんね。近隣のふれあいや助け合いは、こんな人材が1人居れば、もう十分に可能なのだとわかります。

 

 

 

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