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外出したいと思ったとき、誰に気兼ねすることなく自分の意志で、行きたいところへ行けたなら…。お年寄りや障害者のそんなホンネの声に耳を澄まし、二年前、ホームヘルパーの資格を持つドライバーによる全国初の「ケアタクシー」を導入したのが福岡県岡垣市に拠点を持つタクシー会社・(株)メディスの木原圭介社長。運輸業であるタクシーに、福祉という新たな視点を取り入れた木原さんのめざすものとは―。

(取材・文/城石眞紀子)

 

「ケアタクシーを一台お願いします」

そんな指名に応えて、今日も岡垣の町をケアタクシーが快走する。

Aさん(八○代・女性)は入院中のご主人を見舞うために、毎日ケアタクシーを使っている。骨粗しょう症のAさんは小さな段差のバウンドでも骨が折れてしまうことから骨折に対する恐怖心が染み付いているが、ケアタクシーなら時速一〇キロから二〇キロのスピードでゆっくり、ゆっくりと走ってくれるので安心。ケアドライバーの「一時停止します」「右に曲がります」といった細やかな心配りもうれしいという。

足が悪いBさん(九〇代・女性)は、「もう一度、大好きな歌舞伎を観に行きたい」という夢をケアタクシーで叶えた。当日は、ケアドライバーに着替えを手伝ってもらい劇場へ。上演中もドライバーはロビーで待機し、幕間のたびに様子を見に来てくれたので、車イスでの移動やトイレの心配もなく、三時間の上演を堪能できたそうだ。

「ケアタクシーを利用するお客様の目的は、通院や通所、買物などの日常生活のサポートにとどまらず、墓参りをしたい、カラオケに行きたい、温泉に入りたい、旅行へ行きたいなどさまざま。ケアドライバーはお客様の“外出したい”という望みを叶えるために、介護・介助から付き添い、荷物持ちと何でもしますから、これまでは身体が不自由になったらあきらめざるを得なかった“わがまま”を実現される方も多いですね」

九八年八月のサービス開始から約二年が経過し、ケアタクシーの延べ出動回数は一万二〇〇〇件を超えた。

 

 

 

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