ケアマネジャーの中立性が気がかり
介護保険の実施は明治維新、あるいは太平洋戦争後の農地解放や学制改革に匹敵する社会改革。それだけに実施直後は大混乱も予想されましたが大禍なく滑り出しました。
遠藤さんは川崎市の介護保険計画の策定委員をした上デイサービス事業を始め、ケアマネジャーをしています。実際に地域の現場で介護プランを作ったり利用者とサービス事業者をつなぐ仕事をやってみて、率直にどう感じますか?
介護保険スタート時のケアプランは、措置制度の下で提供されてきた従来の介護サービスを介護保険制度の中に置き換えるだけでした。だから大きな混乱もなかったのです。
重要なことは、そうしたサービスの置き換えではありません。ケアマネジャー一人ひとりが、介護が必要な高齢者の暮らしを実際に見た上でその方にふさわしい適切なサービスを地域の中から引き寄せて組み合わせるケアプランを作ることです。実際にそうなっているかどうか、地域のどこにどんなサービスがあるのか知っているかどうか怪しい。やはり自分が所属する事業所や組織のサービスに偏ったケアプランを作りがちです。ケアマネジャーの中立性が気がかりですね。
最大の成果は潜在ニーズが噴き出したこと
それ以前に市民の方々は介護保険の仕組みを理解しているか気がかり。介護保険の仕組みは複雑でむずかし過ぎる。
よく知っている方とほとんど知らない方の両極端です。自分でケアプランを作成して担当のケアマネジャーに「自分の方がいいプランができる」とクレームをつけるようなレベルが高い市民もいれば「サービスを受けなければ認定された要介護度の支給限度額に相当するお金がもらえるのか」と尋ねるような被保険者もいます。
介護保険のよかったことは、介護保険によって潜在していた介護ニーズが噴き出したことです。家族だけで介護の重荷を背負ってきた人たちが何らかのサービスを受けるようになりました。たとえば、要介護4になったような高齢者を抱えて何年も肉親だけで介護を背負ってきた家族がやっとサービス利用に腰を上げるようになりました。こんなにもたくさんの方たちの介護ニーズが埋もれていたのかと思うほど介護ニーズが噴き出してきました。
ケアマネジャーの役割は、そんな方々のお宅に出向いて相談に乗ること。お役所の広報やパンフレットでは介護保険の仕組みはなかなかわかりません。