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ふれあいボランティア考

 

譲られボランティア

 

先日、仲間内で座席譲りの話で盛り上がった。発端はとある地下鉄車内で見た光景から。若い男女が目の前に乗り込んできた夫婦を見てソロソロと立ち上がった。とてもじゃないが席を譲るようには見えない「今時の」高校生で内心感心して見ていたのだが、さらに感心したのはその夫婦の「譲られ方」だった。

「いやあいいのかい?ありがとう、助かるよ」「ありがとう、ごめんなさいね」。明るい声でお礼を言うその態度が何とも堂々としていて、そしてさわやかだったのである。それにこの夫婦、どう見てもまだ60代前後。多少夫の頭が薄めではあったが(それが若者が席を譲った要因だと思うのだが)まだまだ元気な中年夫婦とお見受けした。ほんのわずか一瞬、戸惑ったようだが、すぐに見事な譲られ役を演じていた。お陰で周囲にいたこちらまで心がぽっかり温かくなって、その日1日いい気分で過ごすことができた。

座席議りは本当にむずかしい。席を譲って断られれば何ともばつが悪く、逆に、若いつもりが席を譲られるとショックも受ける。でも、電車内の、行きずりのほんの些細な行動でも、こうして支え合いの温かさを伝えることができるなら、そうだ、あと少し、いずれ自分が年を取ったらあちこち電車を乗り回って「譲られボランティア」というのもあるゾ、それだってココロの教育の一端に貢献できるじゃないか、などと空想に及ぶ。「子供がせっかく席を譲ったのに遠慮して座ってくれない。躾けのためなのに」「せっかく譲ったら怒られちゃったよ。もう二度とやだね」

必ず誰もが体験談の1つや2つは持っているはずだ。時には鞭も必要だが、あの2人の若者のうれしそうな笑顔を思い出すと、やはり「ありがとう」の笑顔は最高の効果を持つアメだと実感した。

 

 

 

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