堀田 男が痴呆の家族を介護するというのはまだまだ少ないですし、今日は貴重な体験をぜひみなさんにお聞かせください。弘子さん、とっても可愛い奥様ですね。本の写真で拝見しましたが。
内藤 いやあ(笑)。これまで結婚して四〇年間、実は夫婦げんかをしたことがないんですよ。ちょっとこちらが強いことを言うと、ぽろっと涙を流されて。男は涙に弱いですね(笑)。
堀田 まさにそのとおりです(笑)。
内藤 ただ、自分の女房のことを言うのも何ですが、やはり人間性というのは大事だとつくづく痛感しました。たとえ痴呆になっても本人の感性は決して失われることはない。正直言いましていつまでも彼女にそういうものが残っているから、ずっと介護を続けてこられたんだと思います。
堀田 本当にそうですね。知識や記憶は失われても決して「こころ」までが壊れているわけじゃない。周囲がそのことをどのくらい理解できるか。とはいえ介護が長期にわたれば、そうした精神的なゆとりも持てなくなって当然なのですが、内藤さんは一六年も奥様を在宅で介護されての言葉ですから重みがあります。
内藤 最初はもちろん気が動転して、家中が家庭崩壊に近い混乱状態でした。まだ五二歳でしたし、それまでの私は男子厨房に入らずを実践する仕事一筋の人間で、まず日々の生活をどうすればいいのか。自分の妻に限って痴呆になるなんてあり得ないと思うわけです。