越中万葉夢幻譚は作曲家で音楽劇作家である藤本嘉一氏が1989年、高岡市市制100年記念に市の委嘱により書き下ろした歴史スペクタクル野外音楽劇です。フランスの古城などでソン・エ・リュミエールと呼ぶ、音と光による歴史ショウが盛んに行われていますが、夢幻譚はこのソン・エ・リュミエール方式に、さらに演劇的性格を加えて音楽舞踊劇とし、ハイテク演出を援用した全く新しい技法とコンセプトに基づく野外劇です。
高岡は、奈良時代に越中国府がおこれたところで、万葉集に多くの秀歌を残した大伴家持も国守として滞在したところです。また中世から戦国時代にかけて源平盛衰記、義経記、太平記などの古典に登場し、歴史エピソードの舞台となったところです。
この地域では、万葉集が日常生活に脈々と息づき、民踊、能、バレエなども盛んに行われています。夢幻譚は、このようなし民の豊富な文化資産を最大限に生かすように工夫して創作された野外劇で、千人を越える市民が俳優として参加しています。
劇音源のサラウンドトラックを除いては、すべて市民俳優と市民の踊り手による舞台であり、上演組織である「越中野外音楽劇団」は、これまでサントリー地域文化賞、国土庁長官賞など多くの賞を受賞しています。また昨年は、(社)国際演劇協会が発行する演劇年鑑「THEATRE YEAR-BOOK 1999」に、市民劇としては初めて夢幻譚が掲載され、日本の舞台成果の最も優れたものの一つとして海外に紹介されました。
本日はお暑い中、高岡野外劇にお運び下さり誠にありがとうございます。初演以来皆さまに愛され上演され続けた「夢幻譚」が記念すべきミレニアムの年に第12回公演を挙行できますことは、この作品の作者として、また皆さまとともに事業の発展に励んで参りました一員として望外の幸せであります。
この野外劇は自らが先人たちが築いてきた歴史を再現し演じることによって、自己の血が受け継いだ文化を再認識し、ともに創造する体験を通じて、市民相互の理解と交流を深めようとするものです。職業年齢を越えて人々がともに集い、ひとつのものを作り上げていく時、その過程がもたらすさまざまな出会いと発見と感動はこの野外劇の大きな魅力であります。またこの活動は、青年たちに出会いの場を、家庭の食卓に彩り豊かな話題を提供し、子供たちの心に生涯忘れることの出来ないふるさとの夏の楽しい思い出を刻みつづけてきました。とりわけ高齢社会で永い余生を送る人々には、若さを保ちながら自己研鑽を続けることのできる恰好の機会を提供していることも忘れてはなりません。
性急に変貌する不安の時代にあって、夢幻譚が単なるイヴェントではなく、家庭と学校の隙間を埋める、第三の生きた社会学校であること、舞台活動という形を借りた、新しい人間関係と地域社会の再構築を目指す作業であることをご理解いただき、一層の御支持を賜りますようお願い申しあげます。今宵のために情熱を傾けてきたキャストスタッフの皆さんと、一夜の夢の散策をともにごゆるりとお楽しみ下さるよう祈りつつ、私のこ挨拶とさせていただきます。
※この野外音楽劇は、たくさんの市民協力者の方々によって支えられています。