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火山災害の軽減と噴火予知の新展開を目指して

 

東大地震研究所 井田喜明

 

溶岩流と火砕流

2年ほど前に上映されたボルケーノという映画を見た方もあるだろう。ロサンジェルス市内に溶岩が噴出して、市街や地下鉄の路線を流れ下り、市の危機管理局の役人が火山学者と協力して、溶岩流と戦う物語である。溶岩がロサンジェルスに噴出することはありそうにないが、溶岩をせき止めようとしたり、水をかけて固化させようとしたり、流れを居住地からそらそうとした行為は、人間が火山と戦う歴史の中で実在した。

火山の噴火は、どろどろに融けた高温の岩石「マグマ」によって引き起こされる。その直接的な証拠は、液体のマグマが地表に流れ出す溶岩である。1983年三宅島噴火の時には、溶岩流は阿古の集落を襲って、民家や学校に侵入した。雲仙・普賢岳の噴火では、流動性の悪い溶岩が累積して溶岩ドームを造った。

火山には溶岩よりもっと危険な現象もある。雲仙・普賢岳では、もくもくした雲のような流体が山腹を流れ下り、山麓に居合わせた43人を一瞬の内に焼き殺した。1991年のことである。この熱い雲の流れに、火山学者は「火砕流」という名前をつけている。火砕流は基本的には低い方向に流れるが、地形の少々の高まりは乗り越える。普賢岳で被災した人々は高台で火砕流の取材や調査にあたっていた。火砕流という専門用語は、普賢岳の悲惨な出来事とともに、またたく間に日本中に知れ渡った。

火山は静かに溶岩を流すこともあり、爆発を起こすこともある。爆発によってマグマは粉々に砕かれて、激しく噴出する。大きな塊は噴石として飛んで、時には人を殺傷し、建物などを破壊する。マグマの小さな破片は空気と混ざって高温の雲を造る。この雲は噴煙として上昇し、遠くまで火山灰を降り積もらせる。また、火砕流となって山腹を流れ下る。噴火は時には岩屑流(岩屑なだれ)、土石流、泥流、洪水、津波などを誘発して2次災害を起こす。このように、噴火も火山災害も多様性に富んでいる(表1)。

 

火山は何故噴火するか

マグマが生まれるのは、地球内部の100km前後の深さである。そこは地球の半径6400kmと比べれば表層に近い。最初は岩石の一部が融けて、液体のしずくができる。しずくは次第に集まり、やがてマグマとして集団で上昇するようになる(図1)。上昇はマグマだまりで一旦停止する。マグマはそこで集積して、まとまってから地表に向けて再び動き出し、最後に噴火を起こす。マグマが山頂火口につながる既存の通路を上ると、噴火は山頂で起こる。マグマは割れ目状の通路を新たに造って、山腹から噴出することもある。

マグマを上昇させる原動力は浮力である。深部では液体のマグマの方が固体の岩石より軽いので、マグマは岩石の間を上昇する。しかし、地表に近づくと岩石の密度が下がって、マグマは浮力を失い、停止する。そこがマグマだまりである。マグマがそこに蓄積して圧力が高まると、マグマは再び上昇を開始する。上昇過程でマグマに溶け込んでいた気体成分は、ビールの泡のように溶け出して気泡になる。気体は圧力が下がると著しく膨張するので、気泡を含むマグマの体積はどんどん大きくなり、それが再び浮力を生む。

 

 

 

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