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「人の人たる道」を勧めた梅岩の学問と思想、そしてその行動をかえりみます時、普遍的文化としての人権(公)と個人の尊重(私)とのつながりに、中間項が欠落していることが、たえず気がかりになっていました。その両者を補完するために、地域を場とする新しいコミュニティの形成が大切であることを、ここ数年来、おりあるごとに私なりに指摘してきました。

「人」という字が象徴していますように、人間はひとりだけで生きることはできません。自然とのまじわり、多くの仲間とのまじわりのなかで、私どもはくらしをいとなんでいます。その個人は家族・学校・職場など、それぞれの地域の共同体のなかで生きているわけです。個人のみの尊重で、人間の尊厳が保たれるわけではありません。梅岩の言葉を借りるなら、「先も立ち、我も立つ」人間関係が必要です。そして人間同士の多文化共生にとどまるだけではなく、自然のいのちと人間のいのちが共に輝く共生を忘れるわけにはまいりません。

ベラー先生が「日本文化においては、自然に対する感受性や畏敬の念が強い一方、環境保護という倫理観はありませんでした」といわれた警告をしっかりとうけとめる必要があります。

 

 

 

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