生きていた心学
人の道にかなった商売が、いかに大切であるかを示すエピソードがあります。昭和十年頃の話です。当時、ハトロン紙という包装紙を小巻にした「ハトロン巻」という品物を扱っていました。五〇尺巻、一〇〇尺巻などがあって、買われたお客様は、それを三尺とか五尺とか、用途に合わせて切って使われます。
ところが、巷(ちまた)では、そのハトロン巻の紙の長さを五〇尺と表示しておきながら、実際には四八尺しかないなどということが、よくあったそうです。お客様はいちいち広げてチェックできるわけではないから、二尺や三尺短くても気づかれない。それをいいことに、長さをごまかすという悪質な業者がいたわけです。
京都府庁にもいくつかの業者が納めていましたが、抜き打ちで検査されることがあり、時々同業者が巻き取り寸法のごまかしを指摘され、出入り禁止になっていました。あるとき、私の会社も府庁から呼び出しがかかりました。「ひょっとしたら、うちの商品に問題があったのではないか」と驚いた父は、すぐに残っている在庫を全部調べさせました。すると、幸い巻き取りの短いものはなかった。急いで府庁へ出向くと、お叱りではなく、「あなたのところはいつ検査しても寸法通りで正直な商売をしておられる。大変感心なことで、今後も購入を続けよう」というお褒めの言葉だったとのことです。