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これは、石門心学の教えと通底するものだと思います。たしかに、人の心は移ろいやすく不安定なもので、時には人を欺(あざむ)いてでも己を利する行為に走ることもあるでしょう。時として、怠け心が頭をもたげ、やるべきことをなさず、ただ徒(いたずら)に無駄な時を過ごしてしまうことがあるかもしれません。しかし、これらは本来の心の姿(まごころ)ではありません。己の本質を見失っているがために立ち現れる、心の歪(ゆが)んだありようと言えます。「真情」―己の本来の心をしっかりとつかんでおれば、人を欺いて己を利する行為が、決して本質的に己の利にはならないことを知るはずです。欲望に任せ、あるいは怠け心に任せて日々を過ごすことが、決して己の安楽につながらないことを知るでしょう。そういう心の本質を見ることを願って、昭和二十五年頃から出している社内報も、『真情』というタイトルで創刊しています。

 

祖父の教育

心学との関わりを考えるとき、祖父の話を抜きに語ることはできません。私が子どもの頃、祖父は病床に伏していながら、時々私たち三人の孫を部屋に呼び、きちんと座り直して、心学の教えを子どもにもよく理解できるたとえ話を用いて話してくれました。

 

 

 

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