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啓子の作文集「真心つむいで」

 

著者の樋口啓子さんは船井郡和知町生まれ。生後間もなく患った脳牲小児マヒのために、四肢にも言語にも重度の障害がある。

そんな彼女のことばを代弁するのが、指一本で打つことのできる和文タイプだ。このタイプでさまざまな思いを書き綴ってきた樋口さんの二冊目の作文集が、京都新聞社より発刊された。

第一作目である「四角い空」の発刊は十年前のこと。自費出版であったにもかかわらず、新聞等に取り上げられ、大きな反響を呼んだ。

前作のタイトルにもなった「四角い空」という作品のなかに、次のような一文がある。「私は外へ出る機会も少なくて、いつも部屋の窓から外を見ている。その空は小さくて、四角い」。しかし、第一作目の作文集を通じ、思いがけないほど多くの読者との交流が生まれた。

第二作目となる本書では、そうした読者とのふれあいを綴った作品を中心に、十年のあいだに書きためたものを収録。「おわりに」と題したあとがきで、著者は「四角い空は大きく大きく、中国まで広がりました」と記している。

おもな収録作品は、作文コンクールで総理大臣賞を受賞した「真心」を始め、専門学校の学生と一緒に車椅子でいった「沖縄旅行」や、中国のペンフレンドに会うため海を渡った「上海、車イスの旅」。また、母校となるはずだった和知第一小学校や隣町の須知小学校などたくさんの児童たちとの交流を描いたものや、結婚、夫とのささやかな日々の営みに触れた作品も多い。これら三十九編の作品が、「真心」「母の元をはなれて」「永き時を経て」の三つのテーマにわけて収録されている。

いずれの作品も、飾り気のない淡々とした筆で綴られるが、友人や家族を思う著者の熱い気持ちや感謝の心は、こちらの胸にも迫ってくる。あたかも樋口さんの「真心」に触れたような、あたたかな読後感が残る作文集である。(全文ルビ入り)

(京都新聞社刊、本体九五二円)

 

 

 

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