特別寄稿
心を豊かにするもの
私の趣味(?)
九州運輸局海運本部長
足利香聖

「あなたの趣味は何ですか。」、「ゴルフなどもなさるんでしょう。」と尋ねられることが多い。仕事柄多くの方々にお会いすることになるので、仕事の打合せが済んだ後は自ら話題は雑談に向かう。「趣味といえるものは持っていません。強いて言えば、散歩というかタウンウォッチングくらいでしょうか。」「ゴルフはしません。囲碁、将棋もいたしません。」と筆者。相手は、今時ゴルフもしないなんて随分変わった人だと言わんばかりの表情を浮かべるのが常である。
「趣味」の意味を辞書で引くと、「1]おもしろみ。おもむき。2]うつくしさ。おもしろみなどをあじわう力。3]なぐさみのために愛好するもの。」とある。通常、この3]の意味で使われることが多いようである。が、果たしてそうであろうか。
世の中で、「趣味は○○です。」と仰っているのを伺うと、実は相当の腕前だったり、相当の精力を注ぎ込んでおられることがしばしばなのである。釣りにしても、ゴルフにしてもそうである。本、雑誌の人物紹介欄でも、「趣味の○○は玄人はだしである。」とか、「○○の腕前はプロ級である。」とかよく書かれている。筆者の前任者であるT先輩の趣味は、「囲碁、陶芸」とされているが、少なくとも陶芸に関してはとても素人とは思えない出来栄えである。(筆者の部屋に置かれている作品を御覧いただきたい。)
筆者の場合、世の人に「これが私の趣味だ」と大きな声で言える趣味は持たないのである。純粋に個人的な、時間つぶしの域を出ない。いわば「半趣味」である。ただし、独りで始められるという利点はあるが。筆者がゴルフをしないのは、身体を動かすのが苦手な方であること、週末くらいはのんびりしたいと考えたこと(現在週休二日制になって事情が変わってきたが)によるものである。
外部の方に申し上げるほどのものでもないが、何かの参考になればと思って筆者が実践している「半趣味」について述べる。
まず、「散歩」である。毎日、二十分から三十分やや速足で歩く、それだけのことである。状況が許せば一時間くらいになることもある。軽い疲れを覚えるくらいまで歩くと、心身とも爽快、リフレッシュすること請け合いである。街の中を観察できるのが楽しい。昔からの人々の生活が息づいている古い町並み、ビジネスの中心だぞと言わんばかりの近代的外観のビル、邸宅の庭に真っ赤に咲き誇る百日紅、小さな公園の端のやや時期遅れの紫陽花等々。季節の移ろいが敏感に感じられる。費用は一切かからず、特別な設備も不要。相手も要らず、自分の好きな時に始められる。中々魅力的なスポーツである。
筆者がこれを始めたきっかけは、職場が九段にあった時からである。九段の近くには、靖国神社、千鳥ケ淵遊歩道、皇居北の丸公園等があり、散歩には最適の場所が揃っていた。いずれも東京都内の花見の名所ではあるが、緑が多いので森林浴のつもりで始めたわけである。霞ヶ関に戻ってからは、役所〜日比谷公園〜皇居前広場〜桜田門のコースと自宅〜渋谷〜青山のコースの二つをよく歩いた。両方とも四十分位か。前者は、昼休み昼食を弁当(弁当屋さんの)で済ませ、直ちに外に出る。四季折々の、手入れをされた日比谷公園の草花が美しい。後者は、体調の良い朝やや早目に自宅を出て、通勤途中の二駅区間を歩くものである。酒落たブティックの立ち並ぶきれいな青山通(無論筆者とは何の関係もないが。念のため。)、渋谷のオフィスに急ぐ通勤者の流れ、渋谷の朝の歓楽街に屯する鴉の一群等、都会のいろんな表情が見られて興味深いものがある。
さて、門司ですが、門司にも素晴らしい散歩コースがいくつもあります。例えば、清滝〜老松(おいまつ)公園〜甲宗(こうそう)八幡宮〜和布刈(めかり)神社、清滝〜風師山(かざしやま)展望台〜風師山山頂、清滝〜葛葉(くずは)〜小森江等は歩きやすいし、周辺も面白い。和布刈コースは所要片道時間四十分位であるが、途中見るべきものが多い上に、早靹(はやとも)の瀬戸の狭さ(六百メートル位か)と潮の流れの速さには一驚である。松本清張氏を御存知の方には、和布刈神社にある「時間の習俗」の碑を見れば、カメラのトリックに頭を悩ませた昔の推理が思い出されるであろう。