久しぶりに訪れたロンドンのウェストエンドは仲間同士のおしゃべりに夢中な若者や演劇やミュージカルの開演を待つ人々の喧噪に包まれていた。
私と妻は開演前に軽く腹ごしらえをし、頃合いを見てお目当ての劇場に向かった。
入り口を入ってすぐ右手にあるボックスオフィスに立ち寄り、日本で予約をしておいたミュージカルのチケットを受け取ることにした。
プログラムは「ベトナム版蝶々夫人」と言った内容で、日本人としてはいささか複雑な感情を禁じ得ないものであるが、実物大のヘリコプターが舞い降りる大がかりな舞台装置が評判になりロングランを続けていた。
「こんばんは。チケットを予約しておいた佐藤ですが…」
律儀そうな年の頃50台後半といった風情の男性がこちらにやって来る。
「いらっしゃいませ。御予約番号は何番でしょうか?」
私はパソコンからプリントアウトしておいたA4の一枚紙を鞄から取り出して予約番号を確認して告げる。
「1-28064/UK1番ですね、ちょっとお待ち下さい」
男性は事務室の奥に入って私の番号のチケットを探し始める。
が、5分、10分経ってもチケットが渡されない。その間に後から来た観客が次から次へとチケットを受け取っていく。
イヤな予感がした。自宅のパソコンからインターネットで予約・購入したチケットだったのだが、あれはやはり…。
4月中旬の午前零時過ぎ、私は自宅のパソコンの前で悪戦苦闘をしていた。
日本から欧州へのゲートウェイとしてロンドンへ立ち寄る事が決まったのがちょっと前。せっかくだから久々にミュージカルでも見ようかという事になった。
日本からチケットを予約するには直接英国の劇場に国際電話をして予約する方法、旅行代理店を通じて予約する方法など色々方法かあるが、新し物好きの私は、ちょうど流行りだしたインターネットを活用したライブイベントチケットのオンライン販売を売り物にした米国の最大手企業関連の英国サイトを開いてみようと思い立った。
早速ホームページにアクセスすると英国内の様々なイベントのメニューが画面に現れる。「昨日のイベント人気ベスト10」などという情報も同時にチェックできる。
このシステムが便利なのは空席状況をリアルタイムで確認できるだけでなく、例えば劇場の何処の座席が良いかを判断する際に各劇場のseating chart(座席表)を呼び出せる事である。懐具合と相談しながらどの辺りの座席を予約するか検討する事ができる。一度も行ったことのない未知の劇場やアリーナであっても見取り図を見ながら座席の選択が容易にできるという訳である。
さて、第一希望、第二希望のプログラムがすべて売り切れという状況。そこで対象をちょっと広げたところ、件の「ベトナム版蝶々夫人」ならばまだ空席があるという情報が出てきた。
そこで座席表を見ながら隣り合う2席を選択、チケットは公演当日に劇場のボックスオフィスで受け取る方法を選び、代金は「クレジットカード決済」の蘭にチェックを入れて「予約・購入申込」をクリック、後は先方から確認メールが届くのを待つのみ、という事になった。