7. ガイドラインの編集方針
海と陸とが接する沿岸域(海岸線をはさむ陸域と海域)は、人間の諸活動の最も盛んな空間である。なかでも、港湾が位置する臨海部には、人口が集中し、稠密で高度な開発・利用がなされてきた。
一方、沿岸域では地形、底質や水質、海象条件に応じて様々な生態系が形成されている。特に干潟、藻場、サンゴ礁は生物相が多様で、かつ高い生物生産力を有し、沿岸生態系の維持及び環境保全にとって重要な役割を果たしている。
人は、これら多様な自然を利用し、その自然と調和しながら生活してきたが、人間の活動が拡大するにつれて自然に対する負荷が増大し、さまざまな不都合や問題が生じるようになってきており、その解決が急がれている。さらに、最近では地球全体の環境容量の有限性を認識し、人間の活動と環境との調和を目指して、「持続可能な開発」、「恵み豊かな環境の次世代への継承」などに積極的に取り組むことが大きな課題となっている。
沿岸域においては、これまでになされた各種の環境施策により、環境問題は大きく改善されてきたと一般的に言うことができる。さらに、開発と環境保全を将来にわたって協調させていくには、干潟、藻場、サンゴ礁などの貴重な自然環境の保全や創造をはかり、豊かな生態系を育む海域環境としていくことがシンボル的で重要な意味合いを有している。
こうした要請に応えて、日本の港湾においては、運輸省港湾局(現在、国土交通省港湾局)が、1994年3月に新たな港湾環境政策を策定し、環境と共生する港湾(エコポート)の形成を目指した取り組みを進めている。この政策の実現にあたっては、新しい視点での技術の習得と応用が求められている。日本の港湾技術者は、港湾の開発・管理を通じて得てきた波・潮流や漂砂などに関する知見や、海域での堆積汚泥の除去、覆砂などの事業から得た技術・知見を活用し、新たな港湾環境政策を推進するための技術として体系化する試みを続けてきた。
本ガイドラインは、(財)港湾空間高度化環境研究センターが運輸省港湾局の監修の下に、日本の沿岸域において特に保全、創造が課題となっている干潟、藻場、サンゴ礁を対象として、それらの保全・創造手法についてとりまとめた日本語マニュアルを基に編集したものである。マニュアルに示された保全・創造の考え方及び整備技術は、港湾関係者だけでなく、沿岸域の開発者、管理者に広く理解され、整備技術は、沿岸域の環境整備事業に積極的に取り入れられてきている。
沿岸域において貴重な生態系を育み、人が自然と調和しながら生活することは、世界共通の課題であり、日本で開発した技術は、世界の開発と環境保全が課題となっている地域においても役に立つと考えている。本ガイドラインは、開発により失われていく沿岸生態系の機能低下を最小限に食い止め、Wise Use, Sustainable Developmentの理念を実現していくための技術資料としての役割を果たすであろう。