また、新規就農者の受け入れ態勢も整えつつあり、農地合理化法人が土地の斡旋と農業技術の指導を行っている。
d. 今後の課題
ビニールハウスの設置、果樹園での農薬使用等環境破壊につながる問題も少なくない。農家が環境を破壊することは許されることではないとの考えから取り組みが始められている。また、有機農業の産物は価格が高くなりがちだが、販路を拡大する上でも技術の向上でこの問題をクリアすることが検討されている。
開発センター(ほとんど町の機関)では、綾町の文化を農産物に載せた販売の方法を模索している。その一方で地場産業に重点を置きたいとの方針もたてつつある。その試みの一貫として学校給食の素材を100%地場のものにとの取り組みがなされている。
e. その他
取材先で前町長郷田実氏の町づくりの思想に共鳴する開拓農民にめぐり合い、畑を見せてもらいながら話をうかがった。話自体も大変興味あるものであったが、栽培方法に限って取り上げておこう。長い年月かけて切り開いたという緩傾斜面に広がる畑には多数品種の柑橘類、葉菜類、根菜類等が文字通り混然と栽培されていた。説明を聞き、また実際に観察してその方法がきわめて生態学的に合理性があることが判った。堆肥以外は施肥しない、農薬は散布しないとのことであったが、さもあらんと得心した。付記しておきたい。
5] コメント
宮崎県綾町は、エコミュージアムを標榜した町づくりをしていないが、地域資源を最大限持続的に活用し、町の活性化に成功しているところである。その町づくりは、ひとつのモデルともなり、全国から訪問者が引きも切らないところにその成功ぶりが表れている。因みに、訪問客数は年110万人で、宮崎県では高千穂についで第2位であるという。町の人口は7,000人である。成功の秘訣は前町長の町づくり哲学にある。その上にたった地域づくりのグランドデザインを描き、それを学習を通して町民に理解を求め参加を進める、この町づくりが綾町をして「内発的発展」のチャンピオンにしたのである。その成果の具体例の一部が調査報告の中に述べられている。
成果の中で特筆すべきものは数多いが、何といっても照葉樹林の保全とその活用である。わが国で最大規模を誇る樹林を無傷のまま残したばかりか、多くの観光客を呼び寄せ町の収入源としている。また、有機農業を推進して綾ブランドとして売出し農業の活性化を図った。さらには都市との交流を積極的に推進してきた。その成果が農業者や工芸家の移住、醸造工場の立地などであり、町の財政に寄与している。が、課題も少なくない。まず、前町長の引退(そして死亡)を契機として町づくり路線に軌道修正が加えられてきている点である。照葉樹林保全路線の軌道修正はこれまでの町づくり路線の変更にほかならない。このことは、これまでの「発展」が一人のリーダーによって進められてき、組織によってではなかったことを示している。これからは町民全体によってすすめていく体制づくりが課題になる。これにかかわって町おこしの基盤に据えられた照葉樹林の持つ意義の町民への周知が不可欠である。照る葉大吊橋のたもとにある博物館は余り利用されているようには見えなかったが、整備し、照葉樹林学習の拠点とするのも一案であろう。
有機農業、ここでいう自然生態系農業には見るべきものはあるが、産業祭りに参加した限りでは、そして役場の担当者の発言から察する限りでは、マンネリ化が進み緊張感が薄れてきているようだ。産業祭りが互いの技術の研鑽の場にもなる企画によって新たな進展が期待できるのではないか。
が、綾町の経験からは学ぶべきものは多い。