日本財団 図書館


2] 水車の持つ計画課題

現況の水車は視覚的イメージのみが際立ち、単なる景観対象として存在しているようにみられる。この点は、後述の第3章「地域住民へのグループインタビュー」でも、町内に居住する人が来訪者を水車に案内する場合でも、車窓から見学するだけで素通りしてしまうことが多いという発言や、観光客の来訪時にも水車周辺での滞在時間が非常に短いなどという点からもうかがわれる。

必ずしも滞在時間を延ばすことが計画上の最重要課題でないが、来訪者が本町の基幹産業である農業を支えてきた産業遺産としての魅力を再発見できる演出、あるいは空間整備の必要性は高い。水車が古来から持つ価値の本質を町民をはじめ、町外から訪れる人々に感じてもらえるような仕組みづくりも含めて検討が望まれる。

 

3] 視点の切り替え

本調査研究では、本町全域の農村景観資源を見つめ直し、地域住民をはじめ都市住民との交流による滞在型・体験型レクリーションによる地域活性化の可能性を検討することを目的としている。水車の持つ農村景観を象徴する魅力や存在感、町外での知名度の高さに対して、本町全体の農村景観の魅力をどのように関連付けていくか、また引き出していくかが課題となる。

この課題に対し、着眼点の切り替えを行う場合、水車の置かれている立地環境、つまり「場」に着目する必要がある。これは、景観形成を考える場合、景観対象を水車単体ではなく、周辺も含めた環境全体を踏まえて、風景の全体像を把握することである。

次頁にその一例を提示したが、写真2-2は現況の水車の写真である。背景には山々が見えるが、この背景の山々を消去すると写真2-3のようになる。この二つの写真を比較すると、それぞれから受ける風景の全体イメージが異なって見えるのはもとより、それぞれから受ける水車単体の印象も微妙に変化してくる。

これらの例を通してもわかるように、本町の農村景観を再評価し、農村景観の保全・活用を視点に町全域にわたるまちづくりを推進しようとする場合、特定の箇所にとらわれることなく、全体的な風景・景観形成の枠組みを観察し、そこから本町独自の特徴を抽出することは、重要な考察作業であるといえる。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION