日本財団 図書館


本件は、当初、日本とECの要請に基づきWTO紛争解決手続が開始されたが、その後、米国連邦地方裁判所において同州制裁法を違憲とする判決が出されたため、WTO紛争解決手続は停止され、最終的には、米国連邦最高裁判所において同州制裁法の違憲無効が確定し、米国国内の問題として、問題の解決をみた。

このように、本件は、最終的にWTO紛争解決手続による問題解決はなされなかったが、例えば、わが国の都道府県・指定都市が協定に抵触する可能性のある条例を制定し、外国政府が意義を唱えた場合を想定すれば、一つのケース・スタディとして有益な示唆を提供しているといえよう。

 

2 地方公共団体における協定遵守の問題

(1) 地方自治法の解釈からのアプローチ

地方公共団体における協定遵守の問題については、まず第6章において、国と地方公共団体が協定の解釈について異なる主張をする場合、地方自治法上、両者がどのような対応をとることができるかという観点から検討を行った。

その結果、政府調達協定規定事項のうち特例政令規定事項に関し、国は、地方自治法に基づく助言・勧告及び是正の要求を行うことにより、地方公共団体における協定遵守を確保できること、そして地方公共団体は、国の関与に不服がある場合に国地方係争処理委員会に対し審査を申し出ることができ、第三者による客観的かつ公平な審査を受ける機会が保証されていることが確認された。

また、政府調達協定規定事項のうち、特例政令が規定していない事項に関し、国は、地方自治法に基づく助言・勧告を行うことはできると思われるが、是正の要求を行うことができるかどうか、すなわち地方公共団体における協定遵守を確保できるかどうかは、自治法第245条の5第1項の「法令」に協定が含まれるかどうかによることが明らかになった。

さらに、この「法令」の解釈について、他の国内法における使用例から類推することを試みたが、国内法における「法令」の定義が非常に多様であることから、異なるアプローチを試みることとした。

 

(2) 協定の国内直接適用可能性からのアプローチ

第7章においては、地方公共団体における協定遵守の問題について、若干視点を変え、WTO協定を国内において直接適用することは可能かという観点から検討することとした。

わが国においては、憲法第98条第2項の趣旨から、条約の国内的効力について一般的受容方式が採用され、条約は批准により、そのまま国内法としての効力を持つとされるが、条約が国内的効力を持つとしても、そのまま直接適用可能かという問題は残る。

また、わが国の裁判所の判例は、これまで条約の直接適用可能性を問題しない傾向にあったが、近年では、人権関係の条約について直接適用を認めた判例がある。この点、WTO協定については、ガット時代にガットの直接適用を否定した判例があるが、WTO設立後については判例がない。

以上を前提とし、WTO政府調達協定の直接適用可能性について検討したところ、これまでの議論とは二つの違いがあることが指摘された。すなわち、第一にWTO紛争解決手続の司法化に象徴されるガットとWTOの性質の違い、そして第一に裁判所による条約の直接適用可能性の問題と地方自治法上の是正要求の問題の性質の違いである。そして、政府調達協定は地方自治法上是正要求可能な「法令」に含まれると解釈する余地はあるが、今後、更に慎重に検討を進めるべきとの示唆が得られた。

 

(3) ECにおける議論からのアプローチ

第8章においては、ECにおけるGATT/WTO協定の裁判規範適格性について、欧州裁判所の判例を報告した。

欧州裁判所は、国際条約が個人に国内裁判所において主張できる権利を付与することを直接効果と表現しているが、同裁判所はGATTの柔軟性等を根拠として、GATT規定の直接効果を一貫して否定してきた。WTO協定については、未だ明確な判断は示されていないが、直接効果に積極的ではないと推測される。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION