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第9章 まとめ

 

本調査研究は、国際協定と地方公共団体の関係について、それが極めて今日的なテーマであるが故に、これまで十分な議論が積み重ねられてこなかったことから、その議論の第一歩として、地方公共団体における国際協定への対応のあり方について調査研究することとした。

そして、第1章においては、WTO協定と地方公共団体の関係を概観し、第2章においては、地方公共団体と最も関わりの深い協定である政府調達協定に焦点を絞り、それが地方公共団体に及ぼしいている影響について、実際に協定を実施していく中で問題が発生した事例を分析することを通して、本調査研究が検討すべき課題を次の二点に整理した。

すなわち、第一に外国政府(韓国と米国)について、両国の地方政府がどのように政府調達協定を実施しているか調査すること、そして第二にわが国の地方公共団体における協定遵守の問題について検討を行うことである。

以下では、前章までの報告・検討の結果を踏まえ、上記二点に関する本調査研究におげる成果を報告するとともに若干のまとめを述べることとする。

 

1 外国の地方政府における政府調達協定の実施状況

(1) 韓国の状況

第3章においては、韓国の地方自治団体における政府調達協定の実施状況について報告した。

韓国では、15の広域地方自治団体が協定の適用対象機関とされており、協定の締結に当たっては、協定を実施するため、関係諸法令の制定・改正をしたほか、「特定調達のための国家を当事者とする契約に関する法律施行令特例規程」を定める等、法制の整備を行っている。

しかしながら、このような法制上の担保措置にもかかわらず、広域地方自治団体における国際入札の実態について調査したところ、いくつかの工事入札公告において、協定及び韓国国内法令に違反する可能性が高いと思われる地域制限条項が見受けられたことは注目すべき結果であった。

韓国政府によれば、韓国の地方自治団体の調達に関し、外国政府から協定上の問題点を指摘された事例はないとのことであったが、政府調達協定を誠実に遵守しているわが国として、今後、韓国の地方自治団体の調達と同協定の整合性について、より一層の注意を払っていく必要があろう。

 

(2) 米国の状況

第4章においては、米国の地方政府における政府調達協定の実施状況について報告した。

米国では、全50州のうち37州が協定の適用対象機関となっているが、協定締結に際しては、交渉の早い段階から州政府の調達部局により構成される団体であるNASPO(さらにはNASPOの中心的メンバーであるニューヨーク州の調達部長)が連邦政府と州政府の調整を行い、州政府側の不満を抑え、実効的な調整機能を果たした(1)

また、協定の適用対象について、米国は、様々な例外規定を盛り込むべく交渉を行い、あらかじめ協定に抵触する可能性のある分野(政治的な個別品目や小企業・少数民族企業等に関する優遇措置等)については適用除外とすることに成功しているが、わが国においては、地方における建設サービスの適用基準額の引き上げに交渉の力点を置いたためか、例外規定は簡潔な内容となっている。

さらに、米国の調達制度は連邦政府、各州政府ごとに異なるため、相互の比較が難しく、例えば中央と地方の比較により地方政府の協定違反を指摘することが困難となっているが、わが国においては、比較可能なシステム(例えば、経営事項審査点数)を利用しており、諸外国からの協定違反の指摘が容易になっている(2)

このような米国における対応は、今後のわが国の協定締結交渉にとって、示唆に富んだものといえよう。

第5章においては、米国マサチューセッツ州のミャンマー(旧ビルマ)制裁法を巡る動向について報告した。

マサチューセッツ州は、ミャンマーの軍事政権によるいわゆる人権抑圧政策に反対して、同州の政府調達に関し、ミャンマー関連取引を行う企業への差別的な制裁措置を規定する州法を制定したが、同州は政府調達協定の適用対象機関であるため、同州制裁法が協定に抵触するかどうかが問題となったのである。

 

 

 

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