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第二に、欧州裁判所のPortuguese Republic v. Council事件判決の認識が示すように、わが国においてWTO協定の裁判規範性を認めることが、他のWTO協定締約国との関係においてどのような意味を持つのかを検討する必要がある。換言すれば、WTO協定により日本が国際法上の義務を負うことは当然であるが、義務を負うからひたすら守るという対応ではなく、その義務の履行をどのように果たすことが、わが国にとっての最大の利益になるのかを探求すると言う視点を持つ必要があろう。現実的にも、アメリカ・ECが裁判規範性を原則として否定している状況において、日本がそれを承認するためには、単に地方公共団体の協定遵守を確保するという以上の積極的な理由付けが必要であろう。

第三に、これまでわが国では、条約の国内的効果に対する認識が不足していたのではなかろうか。例えば、WTO協定締結にあたって、ECの理事会は、その法的効果をどのように評価するかはさておくとしても、決定の前文において、WTO協定が直接効果を生じないことに言及している。日本政府は、これまでこのような態度表明を行っていないのではなかろうか。今後の条約締結に際しては、その国内的効果に対する認識を示すことが必要であろう。

(須網隆夫/早稲田大学法学部教授)

 

注)

(1) Cheyne, International Agreements and the European Community Legal System, 19ELRev. -581, at 583(1994); 岩沢雄司『条約の国内適用可能性−いわゆる"SELF-EXECUTING"な条約に関する−考察』5頁(有斐閣、1985年)。

(2) 須網隆夫「EU対外関係の法的基礎(第2章)」長部重康・田中友義編『ヨーロッパ対外政策の焦点−EU通商戦略の新展開』33頁以下(ジェトロ、2000年)

(3) この他、条約には、ECだけが当事者となる条約と、ECと加盟国の双方が当事者となる「混合協定(mixed agreements)」と呼ばれる条約との区別がある(同上、48-49頁)。

(4) Case 21-24/72, International Fruit Company v. Produktschap voor Groenten en Fruit, [1972]ECR 1219.

(5) すなわち、1987年のDemirel事件判決では、「共同体法制度の不可欠の一部」と表現が修正され(Case 12/86, [1987] ECR 3719, at 3750, para. 7)、その後この表現が定着する(Case 30/88 Greece v.Commission, [1989]ECR3711, para. 12, Case C-192/89 Sevince [1990]ECR I-3461, at I-3500, para. 8)。しかし、最近は「共同体法秩序の一部」との表現も見られる(Case C-469/93 Amministrazione delle Finanze delle Stato v. Chiquita Italia, [1995]ECR I-4533, at I-4568, para. 40)。このような表現の変化は、E C法秩序に占める国際条約の地位の特殊性を示すと指摘されている(Cheyne, Haegeman, Demirel and their Progeny (Chapter2), in The General law of E. C. External Relations 39 (2000))。

(6) 須網隆夫『ヨーロッパ経済法』19頁(新世杜、1997年)。;Brand, Direct Effect of International Economic Law in the United States and the European Union, 17 Nw. J. Int'l L.& Bus. 556, at 600-01(1996-97); Bourgeois, The European Court of Justice and the WTO: Problems and Challenges in The EU, the WTO, and the NAFTA, Towards a Common Law of International Trade? 71, at 97-98(J. Weiler ed. 2000).

(7) Cheyne, supra note 1, at 586.

(8) K. Lenaerts and D. Arts, Procedural Law of the European Union 85(R. Brayed. 1999).

(9) 須網隆夫「ECにおける国際条約の直接効果-「条約の自動執行性」と「国際条約の直接効果」−」早稲田法学76巻3号掲載予定(2001年)。

(10) この時期の判決としては、この他に1975年のNederlandse Spoorwegen v. Insspecteur der Invoerrechten en Accijinzen事件判決がある。同事件の争点は、理事会規則によって定められた対外共通関税に関する関税分類のGATT違反であり、原告は、規則にしたがったオランダ関税当局の課税の違法を問題にした。判決は、直接効果については明言していない(Case 38/75, [1975] ECR 1439)。

(11) 本件の事実関係を詳述すると、委員会は、1967年12月にイタリーによる課税廃止の予定を定める指令を採択し、イタリーに1968年7月1日までに廃止することを求めた。しかしイタリーは、その期限までに廃止しなかったので、委員会は、イタリーの義務違反の宣言を求めてEEC条約169条(現EC条約226条)訴訟を提起し、欧州裁判所は、1970年11月にイタリーの義務違反を認定していた(Case 8/70 Commission v. Italy, [1970]ECR 961)。課税は1971年法により廃止されたが、本件で問題となった課税は、それ以前のものであった。

 

 

 

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