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第7章 わが国におけるWTO協定の直接適用可能性

 

1 はじめに

WTO政府調達協定は、中央政府だけでなく、地方政府の調達行為をも規律するが、わが国に関しても各都道府県及び政令指定都市の調達行為がその規律対象となっている。そのためわが国の地方公共団体の調達行為も、WTO政府調達協定上の義務に違反するとして他の協定受諾国からその是正を求められる可能性がある。この場合、協定遵守を確保するためのわが国国内法上の制度としては、地方自治法245条の5第1項に基づく是正要求が考えられる。同条項によれば、各大臣は、その担任する事務に関し、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、当該都道府県に対し、当該自治事務の処理について違反の是正のため必要な措置を講ずべきことを求めることができる。

ここで、わが国がWTO政府調達協定上負う義務の内容が、特例政令等、関係国内法令に定められていれば、地方公共団体の問題となる行為は、上記条項にいう「法令の規定」の違反として処理できるであろうが、関係国内法令上、協定の内容に相当する規定がない場合(協定3条の内国民待遇等)、同様な是正要求が可能なのだろうか。具体的には、国際条約たるWTO政府調達協定は、法律や政令と並び地方自治法上の「法令」に該当し、地方公共団体に対する是正要求において直接適用できるものと言えるのかが問題となる。そこで本章では、WTO協定がわが国において直接適用可能なのかどうか、若干の検討を加えることとする。

 

2 条約の国内的効力

WTO政府調達協定の直接適用可能性の問題を考える上で、まず、わが国において条約がどのような国内的効力を有するのか踏まえておく必要がある。一般に、国家は条約を国内で実施しなければならないが、条約が国内法としての効力を持ち国内で適用されるためには、憲法の規定または憲法的慣行の定める手続を個別に経なければならない。この点に関する各国の憲法体制は、通例、大別して「変型方式」と「一般的受容方式」とに分類される。

 

(1)変型方式

第1に、「変型方式」とは、条約が国内法秩序において効力を持つには、法律の制定等により編入されることを要するという編入方式である。この方式の下では、条約は批准されても当然に国内的効力を得るわけではなく、個々の立法により受容されなければならない。「変型方式」をとる代表的な国は英国で、条約の締結と批准は国王の大権に属するが、議会の手でその内容が制定法に変形されてはじめて国内法の一部として適用される。

 

(2)一般的受容方式

第2に、「一般的受容方式」とは、条約は法律の制定等の措置をせずとも、そのまま国内法としての効力を持つという方式である。この方式の下では、条約はそのままの形で国内法として一般に受容され、執行される。例えば米国では、条約は連邦議会による法律の制定または大統領による宣言を要することなく米国法に編入されたものとみなされる。

わが国は、後者の一般的受容方式を採用している。現行憲法の下では、条約のうち、その締結について国会の協力を必要とする「国会承認条約」に関しては、その範囲を明確に定め国会の承認を得ることを条件とするものの(憲法73条3号)、天皇の公布によりそのままの形で国内的効力を持つのであって、国際協調主義を掲げる憲法98条2項の趣旨に照らしても、法令の制定という国内法化のための特段の手続を経る必要がない(1)

 

 

 

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