2 協定の国内担保措置
(1) 特例政令の制定
一般論として、国内法令が協定の内容と抵触する場合等には、協定を国内において実施するため、国内法令の改正等何らかの法制上の手当が必要となる。
この点、わが国においては、以下のように考えられた。
すなわち、「地方自治法以下の法体系により規定されたわが国の地方公共団体における契約制度は、既に内外無差別かつ透明なものとなっており、政府調達に関する協定(以下「協定」という。)の趣旨とも合致するものであり、基本的にはそのまま維持しても差し支えないと考えられる。しかしながら、個々の具体的な手続面では、協定上の手続と現行法令上の規定とが異なるもの、現行の地方公共団体における契約制度においては規定していないものが存するので、これらを調整し、協定をわが国において円滑に実施するために法制的な整備が必要である。整備は必要であるもののわが国の地方公共団体における契約制度の基本的考え方は変更されず、協定の適用のある調達契約についてのみ規定を整備するものであるため、本来の地方公共団体における契約制度の法令とは別立てで特例を定める政令(さらに地方公共団体において財務規則等)を設けることが適当である。」(3)と考えられたのである。
そして、このような基本的考え方に基づき、わが国においては、政府調達協定に定められた地方公共団体に関する義務を履行するため、地方自治法の規定に基づき、地方自治法施行令の特例を設けるとともに必要な事項を定めるものとして、「地方公共団体の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令」(平成7年政令第372号。以下、特例政令という。)が制定されたのである。
なお、以下に述べるとおり、特例政令の制定に当たっては、協定のすべての内容を政令事項として規定するのではなく、一部を地方公共団体の財務規則へ委任しており、特例政令の規定が協定のすべての規定をカバーしているわけではない。
(2) 財務規則への委任
特例政令の制定に当たっては、以下の方針により政府調達協定において規定された事項の一部を地方公共団体の財務規則に委ねている。その方針とは、協定の適用を受けない一般の調達契約手続における地方自治法施行令(昭和22年政令第16号。以下、施行令という。)と地方公共団体の財務規則等との入札・契約手続の規定事項の振り分けに準じて、地方自治法の規定及びその趣旨目的を勘案して同列と位置づけられる規定(基本的な創設的特例規定、施行令の一定の条項の適用を制限する規定、施行令の規定を基礎にしてその内容を変更する規定等)は特定政令で規定し、それ以外は地方公共団体の財務規則で規定することを原則とするものである(4)。
協定の国内担保措置としての特例政令と財務規則の関係については、図表2-4のとおりである。
協定の適用を受ける地方公共団体、すなわち都道府県及び指定都市においては、自治省(現総務省)の通知(平成7年11月1日付け自治行第83号自治省行政局長通知)において示された財務規則で規定すべき事項を参考とし、協定の適用を受ける調達についてのみ適用される特例財務規則の制定や既存の財務規則の改正等の対応を行っている。
(3) 苦情処理手続の整備
政府調達協定第20条においては、協定の適用対象となる一定額以上の物品又は役務の調達について、協定と整合的に行われているかどうか疑いがある場合に、供給者が調達について迅速に苦情を申し立てることができる手続等を締約国が整備することが規定されている。
協定の適用を受ける都道府県及び指定都市においては、自治省(現総務省)の通知(平成7年12月1日付け自治国第134号自治大臣官房総務審議官通知)を参考とし、各団体毎に要綱を定め、それに基づき政府調達苦情検討委員会を設置する等所要の苦情処理手続を整備している。