日本財団 図書館


序章 調査研究の目的と狙い

 

従来、国際協定は、国家と国家の関係を規律するものであり、地方公共団体とは無関係のものと考えられてきた。しかし、近年の国際化の急速な進展とそれに伴う世界経済のボーダーレス化の進展は、国際社会や世界経済における地方公共団体の地位を否応なしに向上させることとなり、国際協定の分野においても、いまや地方公共団体は無視できない存在となってきている。

このことを象徴的に示すものが、WTO(世界貿易機関)協定であり、WTO政府調達協定である。実際、ウルグアイ・ラウンド交渉の成果として、1995年にWTO協定が発効して以来、地方公共団体と関係の深い国際協定が増加しており、特に最近は、地方公共団体の個別具体の調達案件や補助金について外国政府から要望や質問が寄せられるなど、わが国の地方公共団体における国際協定の運用状況に対して、諸外国の関心が高まってきている。

一方、地方公共団体を取り巻く国内的な情勢として、2000年4月から地方分権一括法が施行され、地方分権はいよいよ現実の歩みを始めたところである。地方分権の基本的理念は、「地域の行政は地域の住民が自分たちで決定し(自己決定)、その責任も自分たちが負う(自己責任)」という行政システムを構築することであるが、その理念の実現のため、機関委任事務制度が廃止されるとともに、個別の関与が廃止・縮減される等国の地方公共団体への関与について新たなルールが作成され、国と地方公共団体の関係については大改革がなされたところである。

地方公共団体を取り巻く内外の情勢は、一方において、地方公共団体の自己決定権を拡大させ、他方において、地方公共団体に対して、国際協定等のグローバルスタンダードに対応した行財政運営を行うことを要求している。

これは、一見すると地方公共団体の自己決定権の拡大と、それに対する新たな制約の出現という相反する動きのように見えるが、いずれにせよ、国と地方公共団体は、分権改革により実現された対等・協力の新しい関係のもと、国際協定という新たな課題に対応していかなければならないという現実に直面している。

ここで問題は、地方分権については、地方分権推進委員会における議論をはじめ、これまで様々な場において、様々な立場から議論が積み重ねられており、その結果として、1999年の地方分権一括法の成立へと至ったところであるが、これに対し、国際協定と地方公共団体の関係については、それが極めて今日的な課題であるが故に、これまでほとんど議論がなされてこなかったことである。しかも、これまでの議論の積み重ねの有無とは無関係に、今後とも、WTO新ラウンド交渉の結果として、あるいはその他の多国間・二国間の交渉の結果として、地方公共団体と関わりを持つ国際協定はますます増加していくものと思われることである。

そこで、本調査研究においては、国際協定と地方公共団体の関係についての議論の第一歩として、国際協定、特にWTO政府調達協定が、地方公共団体の行財政運営に及ぼしている影響とそれに対する地方公共団体の対応状況について、国内外の事例を調査するとともに、地方分権の時代においては、国際協定の解釈に関し、国と地方公共団体が異なる主張をする場面もありえると考え、そのような場面を想定して、地方公共団体による国際協定遵守の問題について検討を行うこととした。

地方公共団体における国際協定への対応のあり方という新しい検討課題に取り組み、一定の成果をまとめた本報告書が、今後、地方公共団体と国際協定の関わりについて行政を進めていく上で参考になれば幸いである。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION