3 地方公共団体の財政運営における発生主義決算の活用
(1) はじめに
今日、地方自治体の行財政改革を巡る議論において、事業評価と発生主義決算は中心テーマの1つとなっている。事業評価を行うことにより無駄な事業が把握され、また、発生主義決算によりコスト意識が喚起されるというのが、これらを導入すべき理由として挙げられる。
しかしながら、事業評価を行えば直ちに無駄な事業がなくなるかというと、必ずしもそうではなく、様々な利害関係の働きにより、無駄(あるいは非効率)と分かっていても事業が存続してしまうことはあり得る。
また、発生主義決算については、発生主義決算はコスト意識を高める一つの手段ではあるが、唯一の手段ではない。現金主義決算であっても、たとえば施設の建設費だけでなく運営費まで合わせて計算するというようにトータルのコストを把握しさえすれば、コスト意識を高めることは可能である。発生主義決算を採用するか現金主義決算を採用するかといったことよりも、予算編成の手法等を工夫したほうがコスト意識の向上という観点からは効果が上がる可能性がある。
要は、事業評価にせよ、発生主義決算にしても、行財政運営のトータルの仕組みの中での1要素なのであって、真に実効あらしめるためには、それらを含め、全体の制度設計をどうするかという議論が不可欠である。
こうした問題意識を十分に持ちつつも、ここでは地方公共団体の財政運営における発生主義決算の活用について触れることとする。
(2) 現金主義決算の問題点
地方公共団体の現行の会計制度が現金主義決算を採用している結果、実際の行財政運営が現金主義的発想で行われる傾向がある。(1)で述べたこととやや矛盾するようであるが、将来発生する運営費を十分検討せずに施設を建設するというのがその一例である。
また、いわゆる塩漬け土地を抱え、金利負担と含み損が膨らむ一方の状況にある土地開発公社の債務処理の遅れも一例として挙げられる。土地開発公社の問題については、本来的には、地方公共団体が土地を引き取ることにより早期に決着させることが望まれるが、「(地方公共団体の)財政状況が苦しい」という理由で処理が先送りとなっている団体が多い。地方公共団体が土地開発公社の債務を全額保証している以上、発生主義的に見れば、処理を先送りしたとしても、地方公共団体の負担は増え続けているのであり、資金手当てを先送りしているにすぎないのであるが、「財政状況」を理由にしているところに現金主義的発想が窺われる。