第1部 知的障害のある人とスポーツ
はじめに
筑波大学体育科学系
後藤邦夫
2000年の厚生省発表の厚生白書によりますと、日本人の死亡順位は、悪性新生物、心疾患、脳血管障害と続き、それらの原因と考えられる高血圧症、糖尿病、高脂血症などの疾病の対策が問題としてとりあげられ、日本人を取り巻く生活環境の改善が課題として指摘されています。しかし、そのような環境においても、日本人の平均寿命は女性が84歳、男性が78歳と長寿を誇っています。しかし、このことは同時に高齢者の問題を内包し、老人医療費負担による財政圧迫や、介護の問題が深刻な社会的課題となっていることを示しています。
1996年発表の厚生省基礎調査によりますと、全国で知的障害のある人は41万3000人、このうち60歳以上の人は1万8800人(4.6%)で、平成2年の調査結果と比較しますと60歳以上の人が占める割合は1%増えてはいます。しかし、知的障害の無い人(65歳以上の方でも17.2%)と比較しますと、高齢者の占める割合は有意に低く、統計上知的障害のある人は短命といえます。
この理由は様々あると思われますが、先に述べた生活習慣も決して無関係ではないと思われます。ある県で行われた知的障害のある人の養護学校における調査では、調査対象養護学校の全てで肥満度20%を越す児童生徒が20%以上を占めているという報告があります。また、(社)日本知的障害福祉連盟刊の「知的障害のある人たちの健康障害の実態と対策に関する研究」では、特にダウン症児童生徒の肥満度は学齢があがるにつれて上昇し、高等学校年齢になると正常値の限界に近い値となることを報告しています。肥満の問題は複雑ですが、健康障害との関係は密接ですから、以下の章で特に肥満について詳しく述べ理解をいただきたいと思います。
最近の福祉の動向は、「地域で豊かに暮らす」がキーワードとなっています。地域の人たちと同様に、様々な権利を享受し、心身ともに健康に暮らすことが「地域で豊かに暮らす」ことの実現であると思います。心身ともに健康に暮らす道具として、スポーツ(身体活動)があります。スポーツと云いますと、競技スポーツと限定されて受け取られることを恐れ、ここでいうスポーツとは、『自らあるいは他者によって身体を動かし、そのことで喜びを得る活動』と定義します。