日本財団 図書館


役割分担原則における市町村優先主義と道府県・市町村間の地方税源の再配分について

―義務教育職員給与費の負担区分を例にして―

 

岡山大学法学部教授 安宅敬祐

 

1. 役割分担原則の法規範性について

いわゆる地方分権一括法(平成11年法律第87号)による改正後の地方自治法第1条の2第2項は、国と地方公共団体の役割分担原則を明示した。すなわち、地方公共団体が地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うことができるようにすることを基本として、国と地方公共団体は適切な役割分担をすることとされた。すなわち、国は、1]国際社会における国家としての存立にかかわる事務、2]全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動又は地方自治に関する基本的な準則に関する事務、3]全国的な規模で又は全国的な視点に立って行わなければならない施設及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割、の3点に限定してこれらを重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねる、こととされた。

この国と地方公共団体の役割分担原則は、今回の地方分権一括法の全体を通じた基本理念と位置づけられている。その場合の基本理念の意味は、一般的ないし抽象的な理念の次元に止まるのではなく、個々の事務配分をする際の具体的な基準として機能する規範としてであり、行政のみでなく立法をも拘束する基本的法規範として機能するよう位置づけられていることが重要である。

この点は、次の2つの規定の中に伺われる。すなわち、地方自治法第2条第11項においては、「地方公共団体に関する法令の規定は、地方自治の本旨に基づき、かつ、国と地方公共団体との適切な役割分担を踏まえたものでなければならない」とされ、また、同条第12項においては、「地方公共団体に関する法令の規定は、地方自治の本旨に基づいて、かつ、国と地方公共団体との適切な役割分担を踏まえて、これを解釈し、及び運用するようにしなければならない」とされている。

地方自治法は、憲法が保障する「地方自治の本旨」を実定法上において明らかにすることを目的にしており、しかも、「国と地方公共団体の関係を規律する基本的な法律」(いわば地方自治基本法)に相当する。従って、「役割分担適合性規範」は、新たに基本的法規範となったのであり、また、実定法規範として作用していくべきものとされたのである。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION