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2. 近年の都心居住論の動向

 

札幌の状況に入る前に、近年の都心居住論の動向を概観しておきたい。

都心居住推進の必要性、有効性は古くから主張されているが、その観点としては、職住近接による余暇時間の創出、選択性の増大による多様なライフスタイルの場の確保、既成コミュニテイの維持、社会資本整備や公共サービス提供に係る社会コストの低減、高齢者にとっての利便性の高い生活確保、既存小売商業の維持・活性化、防災・防犯上の問題の除去などが挙げられる。

近年はさらに、環境低負荷型都市の構築に向けた都市構造の再編の観点から、エネルギー利用効率の高い職住近接型の市街地形成に力点を置くべきとの主張も多い。

また国政レベルでも市街地誘導の方向として、「中心市街地活性化」「都市のリノベーション」「既成市街地の再構築」などの目標が掲げられ、都心居住の促進に関連する政策を多様に展開すべき時代を迎えている。

都心居住をめぐる議論は、大別して1]その必要性、有効性を検証するもの、2]都心居住者の属性、居住理由、居住意識、定住意向、居住実態等から都心居住促進の可能性や環境整備上の計画課題を検討するもの、3]都心居住の促進を意図した各種制度の効果を検証し、新たな制度提案に結び付けようとするものなどがある。

これらのうち、都心居住の必要性、有効性を検証する議論としては、浅見泰司が包括的な整理を行い、都心居住を推進する論拠は多様にあるものの、住宅供給を「積極的」に推進する論拠は、社会的費用を減少させることを目指す「都市構造論」が最も適しているとしている(1)。また主として上記2]に関わる議論のなかで、都心居住者の多くが「生活の便利さ」を高く評価しており、居住者意向の面から、都心居住の有効性が示されている。実態面からは、巽和夫らが各種サービス施設の立地状況から大都市都心部の利便性の高さを明かにしている(2)。さらに環境低負荷型都市の構築という観点に立って、東京都市圏交通計画協議会が、職住近接による通勤交通に伴うエネルギー消費の抑制効果を実証している(3)

ところで札幌をはじめとする北海道の都市は、アメリカ合衆国の諸都市にその成立過程が類似しており、モータリゼーションの進展や人口移動の構造に伴う市街地状況の変遷についても同様の傾向を示しており、都市計画上の取組みも参考とすべき点が多い。

 

 

 

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