すなわち、場合によっては公共が直接住宅供給を行うことを否定しないものの、住宅供給市場の成長、住民の居住ニーズの多様化、既存住宅ストックの充足を踏まえれば、公共の役割の重点を住宅市場の整備等へ移して行くべきことを示しているものといえよう。なお、同答申においては、都心居住空間の再生のための具体的な住宅施策の例として、マンション管理、建替えに係る制度スキームの検討等が挙げられている【表3】。
また、住宅建設は、新規転入者の増加に対しては一定の効果が認められるものの、既存住民の流出に対しての効果(住みかえ)については必ずしも明らかではないことから、例えば東京都目黒区や北区等においては、住宅供給数は増加している一方で住民数が減少するといった場合もみられる。公共による住宅供給は地方公共団体が行うにせよ地方住宅供給公社が行うにせよ、最終的には地方公共団体ひいては既存住民の負担となるものであり、他の施策に比べ財政負担も大きいものであるから、新規転入者の増加について既存住民のコンセンサスが得られるか否かが今後の住宅供給政策を正当化する上で必要な視点となるであろう。
他方において、高齢者対策等の福祉政策的側面(例:借り上げ型高齢者用市営住宅)や、より快適な生活を求める住民のためのデザイン住宅(例:幕張ベイタウン)など、新たな住宅供給のあり方については今後注目すべき点と考えられる。特に、民間事業主体も活用しつつ、定期借地権方式により二世帯住宅向け住宅を整備する足立区の「2・2・2プラン」などは今後の動向が注目されるところである。
なお、既存住民の流出防止との観点から、既に建設した住宅の老朽化に伴う建て替え期が到来するケースが今後増加するものと思われるが、住民意思を最大限尊重したものとして、和歌山県御坊市の例(ワークショップ・ハウジング市営住宅団地再生事業)などが見られるところである。