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まず観察されるのは、もし全ての国の全ての政府が同じオメガ―改革を促進するために希求される将来の制度や有望な管轄権という同じビジョン―を共有しているとするなら、いろいろな軌跡が一点に集まりそうであるということである。しかしながら、それほど普遍的に共有されている展望は「ない」ように見える。将来の状態についての見解に関わる問いは、本書の後段(とくに第5章と第8章)でもっと深く探求するが、既に本書の選んだ10ヶ国の間では様々な強調点があると示唆してきた。なかには、規制緩和、合理化、同時に予算や財政管理で締め付けることによる経費節減を通して、既存の官僚制を「減量」しようという比較的控えめな野心を持つ者もいるらしい。ドイツは、―少なくとも連邦レベルでは―この範疇に入るように見えるし、欧州委員会もそうである。これは、現在の構造と業務がもっとよく機能するような措置を講じることにより、現状を可能な限り‘維持’する保守的な戦略だと、考える者もいるかもしれない。

 

第二のカテゴリーは、もっと冒険心のある「近代化」を実施した国である。これらの国々は、大きな役割を果たす国家を信奉しているが、行政制度を組織する方法が根本からすっかり変わる必要があることも認めている。こうした変化には普通予算に関わる改革が含まれ、これは結果もしくは実績による予算編成、厳格な人事の緩和(しかし、キャリアが統合された公共サービスという概念は捨てない)、それに中央の省庁や出先機関からの大規模な分権化と権限委譲という形に向かう。さらに、戦略的計画立案をより重要視することも、こうした改革の軌跡の特徴である。近代化実施国の中には、最低限の近代化(マネジメント制度、手段や技術に専心する)と参加型の近代化(中央政府の下位機関への権限移譲、ユーザー責任、高品質サービスの開発をより重要視する)のいずれを取るか、様々であった。カナダ、フィンランド、フランス、オランダ、スウェーデンは、こうした点やその他の点で相当の違いはあるが、この範疇に入る。

 

第三のカテゴリーもまた近代化を欲しているが、どのような近代化がもっとも成功する近代化になりそうか、すなわち競争の強化とMTMを公共部門に導入するという、特殊な考えを持っている。したがって、「市場化」の実施国である。これら諸国が好むのは、準市場、契約による大量の外注、市場テスト、組織の法人化、公務員の契約による配属と実績関連報酬、伝統的キャリア様式外からの職員導入、それに公共部門と民間部門の相違の全般的な削減である。オーストラリア、ニュージーランド、イギリスはどこも、少なくとも本書で検討されている期間の部分部分では、この範疇に適合する。フィンランドやスウェーデンは時々、あえてこの範疇に入ろうと冒険しようとするが、選択的かつ慎重な姿勢を崩さず、たいていは第二の「近代化」実施国の範疇にとどまっている。

 

最後に、‘最小国家’のオメガというものがあり、ここでは国家は、民営化が可能なものはすべて民営化し、「夜警」としての行政手段だけを保持しつつ、民間部門には遂行がまったく不可能か、もしくはまったく意欲を欠く、中核的機能のみを遂行する。公共部門組織の大規模な民営化と無差別の規模縮小が、このアプローチのもっとも重要な特徴である。本書が選んだ10ヶ国には、この最小化への見解を取る国は一つもないし、これが完全な形で見えるのは極右の政治家や理論家のパンフレットの中のみである。しかしながら、こうした見解は、イギリスのサッチャー政権の終盤、ニュージーランドの1990年の国民党政権、オーストラリアの1996年の自由党(非保守派)のハワード政権など、ある一定の政権下では、たいてい極右の政権だが、玩具にされて楽しまれてきた。

 

 

 

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